コンサルタントコラム

所属
災害リスクマネジメント部 安全文化グループ
役職名
テクニカルアドバイザー
執筆者名
津田 洋子 Yoko Tsuda

2017年2月28日

「今度は膀胱がん」。平成27年冬に新聞各社が掲載した職業性疾病のニュースを読んだ時の率直な思いである。北陸地方の化学工場で染料・顔料中間体の製造に従事していた作業者5名が尿路系腫瘍を発症した。平成25年にオフセット印刷工場で起きた胆管がん発症事例の記憶もまだ新しく、この事例も踏まえた労働安全衛生法の改正による“化学物質のリスクアセスメント”の義務化が施行される前の出来事であった。

労働災害による死傷者数(休業4日以上)は昭和63年の23万人に比べ平成27年は12万人と半減しており、安全意識の向上と対策の効果が反映されている。更に、化学物質に対する社会的関心の高まりから、事業主はより安全な化学物質を使用する方向へ進みつつある。しかし、危険物・有害物を起因とした休業4日以上の死傷災害のうち、有害物との接触によるものは平成27年は398人であり、昭和63年の334人と大きな変化がない。

福井県内事業場での膀胱がんの事例や近年の化学物質による労働災害の事例は、化学物質管理への警鐘を二つ鳴らしていると思う。一つは、“法律に規制されていない化学物質は安全”と考えることへの警鐘である。同じ効果のある化学物質であれば法規制のない化学物質の方がコストはかからないため、法規制のない化学物質に変更しようとする企業も多い。しかし、毎年多くの新規化学物質が開発され、それらを取扱う作業者への健康影響も含めた行政対策等は追いついてない。オフセット印刷工場での胆管がん発症事例も法規制されていない物質への転換によるものである。“安全だから法規制がない”のではなく“法規制がないのは健康影響が未知だからかもしれない”という意識と、化学物質のリスクアセスメントの確実な実施が求められている。

二つ目は、化学物質に対する不適切な曝露防止対策が労働災害を引き起こしていることである。今回の膀胱がん発症事例では“作業者は保護手袋を使用していたにもかかわらず経皮吸収による曝露の影響が大きかったことが考えられる”と労働安全衛生総合研究所は報告している。つまり、適切な手袋の選択・使用ができなかったために、作業者が化学物質に曝露したということである。この事例を受け、厚生労働省は法改正や通達により経皮吸収による化学物質曝露防止対策を指導している。

二つの警鐘に対する厚生労働省の対応は、今まで以上に事業主に自主的で積極的な化学物質対策を求めていると言える。事業主は作業者の健康を守るために、今まで以上に多くの知識と情報を入手し自主的な化学物質対策が求められることとなる。そのためには、化学物質の特性のみではなくリスクアセスメント手法、工学的作業環境対策、労働衛生保護具、化学物質の健康影響など、幅広い知識と実践力が必要になる。人材を集められる大手事業場は自社での対応が可能かもしれないが、中小事業場では外部の専門家のコンサルティング等を活用し、最終的には自社内で実施できるように実践的指導を受けるほうが現実的対策だと言えるだろう。

今回のオルトトルイジンによる膀胱がん発症事例は、労働災害そのものが減少した現代において、さらなる安全意識と対策が必要であることを再認識させる事例だったのではないかと思う。

以上

(2017年2月23日 三友新聞掲載記事を転載)

津田 洋子 Yoko Tsuda
氏名
津田 洋子 Yoko Tsuda
役職
災害リスクマネジメント部 安全文化グループ テクニカルアドバイザー
専門領域
労働衛生、産業医学、公衆衛生