トピックス

介護サービス事業者におけるBCP策定に関するアンケート調査

2021年8月26日

令和3年度の介護報酬改定において、感染症や災害への対応力強化として、すべての介護サービス事業者に対して、業務継続計画(BCP)の作成、研修の実施、訓練が義務化されました。MS&ADインターリスク総研株式会社(社長:中村 光身)は、かかる状況を踏まえ、以下WEBセミナーに申し込んだ「介護サービス事業者」を対象に、BCP策定に関するアンケート調査を実施しました。

1. セミナー/アンケート実施概要

・テーマ
:介護事業者におけるBCPの義務化とBCP作成のポイント
・開催期間
:2021年7月12日(月) ~ 2021年7月25日(日)
・主催
:三井住友海上火災保険株式会社、MS&ADインターリスク総研株式会社
・参加者数
:293事業所(266事業者)
・アンケート回答数
:192事業所(146事業者) アンケート回答率65.5%
・アンケート回答事業所の内訳
(主要提供サービスにより以下4つの類型で整理)
:入所系(特別養護老人ホーム等)   114事業所
 通所系(デイサービス等)     38事業所
 訪問系(訪問看護ステーション等) 27事業所
 居宅系(居宅介護支援事業者等)  13事業所

2. 結果概要

1. BCPの策定状況について

(1) BCP策定率

感染症あるいは自然災害を想定したBCPを策定済と回答した事業所の割合は24.0%であった。参考までに、4つのサービス類型ごとの割合は、入所系が約29%、通所系が約26%、訪問系が約4%、居宅系が約15%と差があることが確認できた。

上記でBCP策定済と回答した事業所のうち、感染症を想定したBCPと自然災害を想定したBCPの両方を策定済と回答した事業所の割合は41.3%であった。

【表1】介護サービス事業者におけるBCP策定割合と想定対象リスク

BCP策定率 「BCP策定済事業所」の想定対象リスク
感染症 + 自然災害 感染症のみ 自然災害のみ
全類型 24.0% 41.3% 26.1% 32.6%
n=192 n=46
類型ごと 入所系 28.9% 42.4% 27.3% 30.3%
通所系 26.3% 50.0% 20.0% 30.0%
訪問系 3.7% 0.0% 100.0% 0.0%
居宅系 15.4% 0.0% 0.0% 100.0%

BCP策定済の事業所はまだまだ少ないものの、策定済の事業所の中には、BCP策定の義務化を見据えて、感染症と自然災害の両方を想定したBCPを策定済である事業所が少なからず含まれる状況がうかがえる。

(2) 未策定事業所の対応状況

上記(1)でBCPを未策定と回答した事業所のうち、感染症あるいは自然災害を想定したBCPを策定中と回答した事業所の割合は47.3%であった。参考までに、4つのサービス類型ごとの割合は、入所系が約52%、訪問系が約50%、通所系が約43%、居宅系が約18%と差があることが確認できた。

上記でBCP策定中と回答した事業所のうち、感染症を想定したBCPと自然災害を想定したBCPの両方を策定途中と回答した事業所の割合は85.5%であった。

【表2】BCP未策定事業所におけるBCP策定状況

BCP策定中とする事業所の割合 「BCP策定中事業所」の想定対象リスク
感染症 + 自然災害 感染症のみ 自然災害のみ
全類型 47.3% 85.5% 5.8% 8.7%
n=146 n=69
類型ごと 入所系 51.9% 88.1% 4.8% 7.1%
通所系 42.9% 83.3% 0.0% 16.7%
訪問系 50.0% 76.9% 15.4% 7.7%
居宅系 18.2% 100.0% 0.0% 0.0%

BCP未策定の事業所の約半分は、BCP策定に着手しており、そのうち大半は、BCP策定の義務化を見据えて、感染症と自然災害の両方を想定したBCPの策定を進めている状況がうかがえる。

2. 策定済BCPに関する研修・訓練の実施状況

(1) BCP研修・訓練の実施率

感染症あるいは自然災害を想定したBCPを策定済と回答した事業所のうち、BCPを組織に根付かせるために研修あるいは訓練を実施済と回答した事業所の割合は45.7%であることが確認できた。

上記で研修あるいは訓練を実施済と回答した事業所のうち、感染症と自然災害の両方を想定したBCPを策定済である事業所の割合は52.4%、感染症か自然災害のいずれかを想定したBCPを策定済である事業所の割合は47.6%であった。

【表3】BCP策定済事業所における研修・訓練の実施割合

研修あるいは訓練の実施割合 「研修あるいは訓練実施済事業所」のBCPにおける想定リスク
感染症と自然災害の両方を想定 感染症か自然災害のいずれかのみ想定
45.7% 52.4% 47.6%
n=46 n=21

BCP策定済の事業所の半分近くがBCPの研修・教育を実施しているが、なかでも、感染症と自然災害の両方を想定したBCPを策定済の事業所では実施割合が高く、BCP策定の義務化を見据えた対応を着々と進めている事業所が少なからず存在する状況がうかがえる。

(2) BCP研修・訓練の実施内容

上記(1)で研修あるいは訓練を実施済と回答した事業所のうち、研修のみを実施していると回答した事業所の割合は47.6%、訓練のみを実施していると回答した事業所の割合は33.3%、研修と訓練の両方を実施していると回答した事業所の割合は19.0%であった。

【表4】研修・訓練実施済事業所における実施形態ごと実施割合

研修のみ実施 訓練のみ実施 研修と訓練の両方を実施
47.6% 33.3% 19.0%

BCP研修・訓練の実施において、訓練の方が研修より手間がかかるのが通常であるが、BCP策定の義務化を見据えて、研修あるいは訓練を実施済の事業所の半分以上が訓練を実施している状況がうかがえる。

なお、参考までに、上記で研修あるいは訓練を実施済と回答した事業所のうち、研修と訓練それぞれの実施割合をBCPの想定対象リスク(感染症・自然災害)ごとに分けて見てみると、感染症研修が47.6%、感染症訓練が14.3%、自然災害研修は38.1%、自然災害訓練が42.9%となった。感染症を想定した訓練の実施割合が、他と比べて著しく低いが、感染症BCPに本格的にスポットが当たったのがコロナ禍以降と新しく、ノウハウ等が蓄積されていない事情が要因の一つだと思われる。

【表5】研修・訓練実施済事業所における想定対象リスクごと実施状況

研修 訓練
感染症 47.6% 14.3%
自然災害 38.1% 42.9%

3. 最後に

ここまで、介護サービス事業者におけるBCPの策定率はまだまだ低いものの、BCP策定済の事業者は、感染症と自然災害の両方を想定したBCPを策定のうえ教育訓練を推進、また、BCP未策定の事業者も感染症と自然災害の両方を想定したBCPを策定中と、BCP策定の義務化を見据えて、着々と準備が進みつつある状況がうかがえる。BCP策定の義務化への対応は3年間の猶予期間はあるものの、研修・教育まで実施しなければならないことを考えると、早めに準備・対応いただくことを推奨する。

以上