~安心・安全で快適なエアモビリティ社会の実現に向けて~
「『空飛ぶクルマ』の社会受容性等に関する調査(第3回)」について
2024年08月28日
MS&ADインターリスク総研株式会社
空飛ぶクルマが実現すると答えた消費者は49.3%と年を追うごとに低下
市場性と社会受容性双方を高めるための課題とその克服の条件の理解が重要
MS&ADインシュアランス グループのMS&ADインターリスク総研(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:一本木真史)は、「空飛ぶクルマ」に対する消費者の意識や社会受容性を把握し、商品・サービスの高度化と新たな開発に活かすことを目的に、「空飛ぶクルマの社会受容性等に関する調査」を実施しました。
弊社では、2020年度および2021年度に、移動に関する様々な課題を解決する次世代モビリティとして期待される「空飛ぶクルマ」に関して調査を実施しましたが、2023年度も「空飛ぶクルマ」の社会受容性等に関する調査を実施しました。
今回の調査により、「空飛ぶクルマ」が実現すると回答した消費者は調査を開始した2020年調査から徐々に低下していることが分かりました。消費者の考えるメリットや条件については「有事には災害救助・救命救急への利用が事業者によって約束されている」が最も多かったことから、ドクターヘリのような救急搬送などについてはイメージしやすいけれども、実際に自分が利用客になるという局面において、気軽かつ安全に利用できるかどうか不明な点が期待値を低下させたと考えられます。そのため、「空飛ぶクルマ」の社会実装に向け、市場性、社会受容性双方を高めるための課題とその克服のための条件を理解し、特に利用者の立場においては、地域、属性等の特性を踏まえた対策を講じる必要があると考えられます。
なお、空飛ぶクルマの実現に向けて国土交通省では、「空の移動革命に向けたロードマップ」に基づき、2025年の大阪・関西万博での飛行開始に向けて、機体や運航の安全基準、操縦者の技能証明、離着陸場等の基準の整備及び、空飛ぶクルマの初期運航に必要な情報提供・モニタリング等を行うための施設整備等を進めています。
今回の調査結果を踏まえて、弊社はこれまでの次世代モビリティ領域におけるリスクマネジメントに関する知見を活用するとともに、次世代エアモビリティサービスの安全性・社会受容性向上に加え、サービスの普及による地域の様々な課題の解決に貢献していきます。
1. 「空飛ぶクルマ」に関する意識調査
(1) 調査の概要
- ① 調査方法
- :Webによるアンケート
- ② 調査対象
- :15歳~89歳の男女個人
- ③ 回答数
- :2,000人
「地域①」東京都・大阪府在住者:800人、「地域②」長野県・大分県在住者:800人、「地域③」左記以外の在住者:400人)。性別、年代がほぼ均等となるよう割付を実施。
- ④ 調査期間
- :2024年2月
(2) 調査の背景、目的
① 背景
2025年に開催予定の「大阪・関西万博」において空飛ぶクルマの運航が予定されています。これにより機体開発や離発着場の開発に向けた動きが加速し、デモフライトも実施され、空飛ぶクルマを目にする機会も増えてきています。
空飛ぶクルマの社会実装に向けて、2018年より「空の移動革命に向けた官民協議会」が設置されました。空飛ぶクルマが重要な政策と位置付けられ、政策や法整備の検討が進められています。また自動車や鉄道のように身近な存在としての日常の移動など居住区近くでの運航の他、中山間地帯や離島での移動、観光(空港や駅から観光地への移動を含む)、災害時の救助など、様々なユースケースも検討されています。
空飛ぶクルマの社会実装には、ネガティブなイメージをもっている人の受容性を高めるための課題とその克服のための条件を見極めることが必要です。そのためには、社会(利用者を含む)がこの新しいモビリティに関する官民等の動きをどう受け止め、何を期待し、何に不安を覚えているのかを理解することが重要です。
② 目的
(ア)目的の一つ目は、日常利用するモビリティに対する不満や期待を明らかにしつつ、「空飛ぶクルマ」に対して、地域特性によって異なる意見等を持っているとの仮説のもと、期待や不安・課題などを浮き彫りにすることです。
【今回仮説を設定した地域】
地域①…渋滞などの課題解決の手段として期待されていると考えられる大都市圏(東京都・大阪府)
地域②…大都市からのアクセス、県内でのアクセスの課題解決の手段として期待されていると考えられる地域(長野県・大分県)
地域③…上記①、②以外の地域
(イ)目的の二つ目は、「空飛ぶクルマ」に対して、回答者の属性によって異なる意見等を持っているとの仮説のもと、期待や不安・課題などを浮き彫りにすることです。
【今回考慮した属性】
- (a) 住所(都道府県、郵便番号)
- (b) 性別
- (c) 年齢
- (d) 職業
- (e) 年収
③ 調査項目
調査項目は以下のとおりとし、計50問の質問を行いました。
- 日常利用するモビリティの課題と期待するソリューション
- 「空飛ぶクルマ」に関する認知度と実現への期待
- 利用者としての期待・不安
- 社会としてのベネフィット・不安
(3) 調査結果の概要
①2024年2月の調査では「空飛ぶクルマ」が実現すると思うと答えた人の割合は49.3%でした。2020年9月の調査は57.8%、2021年8月は53.1%となり、年を追うごとに低下していました。(図1)。
図1 空飛ぶクルマの実現可能性
②「空飛ぶクルマ」に対して期待することで最も多かったのは「移動時間の短縮」、2番目に多かったのは「渋滞のない移動」であり、2020年・2021年の調査でも同じ結果でした。地域別でみても、1番目、2番目では差異は認められませんでしたが、3番目に多かったのは、東京都・大阪府では「救命・救急医療の迅速化」、長野県・大分県では「救命・救急医療の迅速化」とほぼ同じ割合で「離島等、今まで簡単には行けなかった場所への移動」も高い結果となりました。東京都・大阪府と比較して、長野県・大分県では、日常における移動の移動の不便さから等、差異があったと考えられます(図2)。
図2 「空飛ぶクルマ」に対して期待すること
③「空飛ぶクルマ」を利用したい場面で最も多かったのは「急いでいる場面(鉄道やタクシーより時間短縮できる場合)」であり、2020年度の調査でも同じ結果でした。性別では1番目では差異は認められませんでしたが、2番目に多かったのは、男性は「遊覧飛行など観光・娯楽の場面」、女性は「空港から目的地へ移動する際の負担を減らしたい場面」となりました。アンケートの結果から、男性は女性と比べ出張の機会が多かったことから、空港から目的地への移動に負担を感じない傾向にある(慣れている)と推察され、それが差異の生じた要因と考えられます(図3)。
図3 「空飛ぶクルマ」を利用したい場面
④利用者以外の(「空飛ぶクルマ」の飛行ルートや離着陸場周辺住民としての)立場において、「空飛ぶクルマ」に対する不安という面では、1番目に多かったのは「墜落した場合の人命、財産に対する甚大な被害」であり、「落下物」がこれに続きましたが、2020年度の調査でも同じ結果でした。また、属性による大きな差異は認められませんでした。「空飛ぶクルマ」が墜落したり建物等に衝突しないことや、荷物等を落とさないこと、騒音を出したり犯罪に悪用されたりしないこと等、属性にかかわらず共通の不安を有しているものと考えられます(図4)。
図4 「空飛ぶクルマ」が自宅の上空を飛ぶことに対する不安
(4) まとめ
- ①今回の調査により、利用者を含む社会が、現在の移動手段に対して抱いている不満や課題、「空飛ぶクルマ」に対する期待、不安について地域や属性等の特性を踏まえた結果を示すことができました。
- ②社会受容性の観点からは有事の際のスキームや不安要素についての対策に取り組む必要があることを、明らかにすることができました。
- ③「空飛ぶクルマ」の社会実装に向け、市場性、社会受容性双方を高めるための課題とその克服のための条件を理解し、特に利用者の立場においては、地域、属性等の特性を踏まえた対策を講じる必要があると考えられます。
2. 今後の取組みについて
今後は、先行調査との比較によって、日本と海外の利用者/社会の意識の差や、昨年実施した調査における認知度の差等を分析するとともに、継続的な調査を行うことで、MS&ADインシュアランスグループとして、安心・安全な「空飛ぶクルマ」の社会実装に向けた社会課題の解決に貢献していきます。
【参考文献・出典】
(1) 内閣府 科学技術と社会に関する世論調査(平成29年9月調査) 図1 科学技術についてのニュースや話題への関心 https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-kagaku/gairyaku.pdf (2) 公益財団法人新聞通信調査会 第13回メディアに関する全国世論調査 (2023年) 図16-2 ニュースとの接触時間 (20ページ) (3) 総務省 情報通信白書令和2年版 第2部 基本データと政策動向 図表5-2-5-1 主なメディアの平均利用時間と行為者率 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd252510.html |
以上