オフィス労働者の身体活動を促進する
包括的・多要素プログラムの実施可能性
2022年12月23日
国立大学法人筑波大学
MS&ADインターリスク総研株式会社
オフィス労働者は他の職種と比べて、身体活動量が少なく、座位時間が長い勤務形態が特徴で、これは糖尿病や筋骨格系疾患などのリスクを高める要因と考えられています。そこで、オフィス労働者の身体活動量を増やし、座位時間を減らすためのさまざまな対策が検討されています。本研究グループはこれまでに、オフィス労働者を対象としたインタビュー調査を実施し、日本の職場の環境や文化を踏まえた、オフィス労働者の身体活動を促進する包括的・多要素プログラムを提案しており、本研究では、このプログラムの実施可能性を検証しました。
20歳以上のオフィス労働者76人に対して、8週間の包括的・多要素の身体活動促進プログラムを実施してもらい、そのうち50人の解析対象者について、身体活動量を分析しました。その結果、介入前後で、1日あたりの中・高強度身体活動(MVPA)は7.3分、歩数は873歩、有意に増加しました。また、40人については勤務日と休日、34人については出社勤務日とリモート勤務日に分けて追加分析を実施したところ、勤務日において、1日あたりのMVPAが10分、歩数が1172歩、休日では歩数が1310歩、リモート勤務日ではMVPAが7.1分、歩数が826歩、有意に増加したことが確認されました。
本研究により、オフィス労働者の身体活動を促進するための包括的・多要素プログラムの実施可能性が認めらました。このプログラムは、比較的低コストで実施可能であることから、今後、さまざまな職場での導入が期待されます。
研究代表者
筑波大学体育系
中田 由夫 准教授
MS&ADインターリスク総研株式会社
森本 真弘 リスクマネジメント第四部・部長
研究の背景
オフィス労働者は他の職種と比べて、身体活動量が少なく、座位時間が長い勤務形態を特徴としており、糖尿病や筋骨格系疾患などの疾患リスクが高いと考えられています。このことは、労働生産性にも影響する可能性があることから、近年、職域での身体活動増進に取り組む企業が増えています。本研究グループでは、オフィス労働者を対象としたインタビュー調査を実施し、日本の職場の環境や文化を踏まえた、オフィス労働者の身体活動を促進する包括的・多要素プログラムを提案しています(Kimら、2022)。今回、このプログラムの実施可能性を検証することを目的に、単群実施可能性試験注1)を実施しました。
研究内容と成果
本研究では、オフィスでの業務を主とする企業に勤務する20歳以上の労働者76人を対象としました。この企業では、新型コロナウイルスの流行防止対策としてリモート勤務を積極的に導入しており、研究対象者の平均的な勤務形態の内訳は、出社勤務2.4日/週、リモート勤務2.2日/週でした。8週間の包括的・多要素プログラムとして、身体活動を促進するための個人戦略(講義、印刷物、目標設定、フィードバック)、社会文化的環境戦略(チーム構築、雰囲気づくり)、物理的環境戦略(ポスター) 、組織的戦略(役員による推奨)を提供し(図1)、実施してもらいました。なお、本研究は、緊急事態宣言の期間中(2021年1月8日から3月21日まで)に行われ、研究参加者に対する説明会、調査、介入プログラムは、すべてリモートで提供されました。
主要評価項目は、活動量計注2)により評価した中・高強度身体活動時間(MVPA)で、副次評価項目は歩数、低強度身体活動時間(LPA)、中強度身体活動時間(MPA)、高強度身体活動時間(VPA)、座位行動時間注3)でした。介入効果を評価するため、介入期間前後の身体活動量を分析するとともに、1週間の測定期間を勤務日と休日に分け、さらに勤務日を出社勤務日とリモート勤務日に分けて、追加分析を実施しました。
分析の結果(表1)、研究対象者の1日あたりのMVPAは7.3分(95%信頼区間0.8-13.8分)、MPAが6.6分(0.3-13.0分)、歩数が873歩(169-1576歩)、有意に増加しました。また、1週間を勤務日と休日に分けて追加分析すると、勤務日でのMVPAが10分(3.7-16.3分)、歩数が1172歩(365-1979歩)有意に増加し、休日では歩数が1310歩(63-2557歩)、有意に増加していました。勤務日を出社勤務日とリモート勤務日に分けた分析では、リモート勤務日ではMVPAが7.1分(0.4-13.7分)、歩数が826歩(46-1606歩)有意に増加しましたが、出社勤務日においては有意な変化が認められませんでした。これらのことから、オフィス労働者を対象にした、身体活動を促進する包括的・多要素プログラムの実施可能性が明らかになりました。
今後の展開
本研究で提供した包括的・多要素プログラムは、比較的低コストで実施可能であることから、今後、さまざまな職場での導入が期待されます。
参考図
図1 本研究で提供した包括的・多要素の身体活動促進プログラム
表1 介入前後における測定項目の変化
全日 (n=50) |
勤務日 (n=40) |
休日 (n=40) |
出社勤務日 (n=34) |
リモート勤務日 (n=34) |
||
---|---|---|---|---|---|---|
MVPA | +7.3分/日* | +10分/日* | +13.7分/日 | +3.5分/日 | +7.1分/日* | |
歩数 | +873歩/日* | +1172歩/日* | +1310歩/日* | +540歩/日 | +826歩/日* |
*統計的に有意な変化(p<0.05)
用語解説
注1)実施可能性試験
新しい介入プログラムの有効性を検証する前に、そのプログラムが対象集団に受け入れられ、実行してもらえるかを確認するための試験。
注2)活動量計
身体活動状況を客観的に評価する機器(3軸加速度計)。
注3)座位行動
座位、半臥位または臥位の状態で行われるエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての覚醒行動。
研究資金
本研究は、筑波大学とMS&ADインターリスク総研株式会社との共同研究契約に基づき実施されました。また、本研究の一部は、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)および筑波大学ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究(ARIHHP)センターの支援を受けました。
掲載論文
- 【題名】
- Multi-Component Intervention to Promote Physical Activity in Japanese Office Workers: A Single-Arm Feasibility Study
(日本人オフィス労働者の身体活動を促進する多要素介入:単群実施可能性試験) - 【著者名】
- Jihoon Kim, Ryoko Mizushima, Kotaro Nishida, Masahiro Morimoto, Yoshio Nakata
- 【掲載誌】
- International Journal of Environmental Research and Public Health
- 【掲載日】
- 2022年12月15日
- 【DOI】
- 10.3390/ijerph192416859
以上