コンサルタントコラム

所属
リスクマネジメント第二部 運輸総合リスクマネジメントグループ
役職名
上席コンサルタント
執筆者名
石木 智大 Tomohiro Ishiki

2022年6月8日

2022年5月13日の改正道路交通法施行により、過去約3年に特定の運転違反歴を持つ75歳以上の方は、運転免許更新時に運転技能検査への合格が必須となった。100点満点で70点を下回ると不合格となるが、更新期間満了までの約6ヶ月繰り返し受検可能な仕組みである。

改正のきっかけは、2019年4月に池袋で発生した交通事故で、高速度で歩行者や自転車と衝突し、計11人が死傷した痛ましい事故である。運転者は事故当時87歳。免許証の自主返納はこの事故以降急増しており、事故が世間に与えた影響の大きさを感じる。

運転技能検査の項目の1つに、「段差乗り上げ」がある。アクセルを踏み前輪が段差を乗り上げた直後、速やかにブレーキに踏み替え停止できることが要求される。内閣府のデータによれば、令和元年のブレーキとアクセルの踏み間違いについて、75歳未満においては死亡事故全体の0.5%であるが、75歳以上においては全体の7.0%を占めている。素早い踏み替え動作は、75歳以上のドライバーにとってはハードルの高い項目と言えるだろう。

制度化前の予行実験においては、被験者の約2割が不合格となった。不合格者の減点行為として最も多く観測された項目が「一時停止」だった。停止線より手前に車体の先端を位置させ、完全に停止することが要求される。次いで多く観測された項目は、前述の「段差乗り上げ」と「右左折時の右側へのはみ出し」だった。はみ出しでは、右左折時に車体が道路の中央線を越えないことが要求される。普段の運転で「やっているつもり」でも、長年の運転で悪い癖が習性となり、運転技能検査本番で減点されることになるかもしれない。合格する運転は、すなわち事故を未然に防ぐ運転となる。運転する全ての方に、日々の運転の振り返りを目的とした運転技能検査項目の確認を推奨したい。

また、高齢運転者の交通事故リスクの背景には、加齢に伴う身体機能の低下と認知機能の低下があるとされている。これらの低下には自覚症状がないため、自身でそれに気づかぬまま若いころの感覚で運転を続けることが事故につながることもある。加齢とともに発症しやすくなる病気や症状の一つである緑内障や認知症は、いずれも初期症状に気づくことは難しいが、早期発見早期予防により進行を遅らせ、運転行為への影響や、生活そのものへの影響を極小化できる可能性が高い。自身の体に目を向けることは、運転寿命とともに健康寿命の伸長にもつながるだろう。

今回の改正は高齢運転者の更なる事故防止に向けた一つのSTEPとなるだろう。一方で、車を使用した移動が必須の地域における対応をみるに、免許証返納後の移動手段確保や生活に対する社会的取り組みの整備はまだ十分とは言えないように思う。運転免許証の返納がQOLの低下を招き、要介護認定のリスクが約2倍以上になるとの研究もある。高齢運転者のみならず車を運転する全ての方が、自身の健康に気を配りつつ、交通ルールを再確認のうえ安全運転を行い、あわせて、サポカーや後付け安全装置なども活用して、事故のリスクを軽減することをあらためて検討いただきたい。

以上

(2022年5月26日 三友新聞掲載記事を転載)

石木 智大 Tomohiro Ishiki
氏名
石木 智大 Tomohiro Ishiki
役職
リスクマネジメント第二部 運輸総合リスクマネジメントグループ 上席コンサルタント
専門領域
交通リスクマネジメント

コラムカテゴリー