日本のカーボンニュートラル取組み
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- カーボンニュートラル
- 役職名
- リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第二グループ 担当
- 執筆者名
- 武弓 倫子 Noriko Takyu
2021.11.10
1. 日本のカーボンニュートラル取組み
地球温暖化による影響が顕在化する中、2015年のパリ協定以降、世界は気温上昇を産業革命以降で2℃未満、できれば1.5℃に抑えるために動き出している。日本でも2020年10月、菅首相(当時)の所信表明演説において「2050年カーボンニュートラル(CO2などの温室効果ガス排出を全体としてゼロにする)」を目指すことが宣言され、脱炭素社会に向けて企業も同様の取組みが求められることとなった。
日本の温室効果ガス排出量は、年間で12.4億tであり、部門別でみると産業部門は4.6億tで全体の37%を占めており、次いで業務部門2.4億t(19%)、輸送部門2.2億t(18%)となっている(出所:2019年エネルギー基本計画(素案))。2050年カーボンニュートラル実現には、目標達成に向けて事業者があらゆる技術を駆使して取組むことが鍵となる。
2. 企業のカーボンニュートラル取組み
企業のカーボンニュートラルへの取組みには大きく3つのステップがある。最初のステップは温室効果ガス排出量の現状把握である。算定の範囲はScope1(自社のエネルギー起源の排出量)、Scope2(電気や熱の利用に伴う排出量)、Scope3(サプライチェーンの上流(調達等)と下流(販売等)の排出量など15のカテゴリーで算出)の3つに分類される。削減計画を作成するにあたって、まずはScope1、2の算定が推奨される。Scope3は、サプライチェーンも含めた事業を取り巻く排出量を網羅的に把握することも算出の目的の一つであり、全体を把握するためには時間を要するほか、取引先にScope1、2の算定を求めることもある。なおScope3では算定が可能なカテゴリーから取組みを開始して、徐々に範囲を広げていく企業も多い。
2つめのステップは、削減計画の作成である。算定された温室効果ガスの排出量を基に、2030年や2050年の削減目標に応じて削減量を概算する。政府はエネルギー起源温室効果ガス排出量を基準となる2013年の12.4億tから、2030年には6.8億t(▲46%)、2050年にゼロにするというロードマップを2021年7月に発表した。この削減目標の達成に向けて、部門別で割り振られた削減目標に沿って削減計画の実現に取組むことになる。
3つめのステップは、削減の取組みである。省エネでは、節電のほか施設・設備の更新(LED照明機器や高効率空調設備導入)を行い、再生可能エネルギーの導入では太陽光発電などの自家発電の導入や再エネ電力の購入、更にはJクレジット制度の活用(温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして認証する制度)により排出量の削減を行う。2050年に向けて計画的に既存の技術を活用するとともに、現在は実用化されていない今後の新技術によって達成される。
3. 企業の最新動向
大企業についてはSBT(パリ協定に整合した国際的な基準)やRE100(100%再生可能エネルギー)の認定に関する取組みが活性化している。2021年9月末時点ではSBTが136社、RE100が62社認定を受けており、日本はともに世界第2位の認定数となっている。中堅・中小企業については大企業を中心としたScope3算出に伴う排出量の算定要請に伴う取組みが増えてきているほか、中小企業版SBTの認定取得に向けた取組みを開始する企業も出てきている。
脱炭素に関連する動きは企業価値向上に向けて重要な施策である。環境問題は社会に求められた喫緊の課題であり、今後もこのような動きは加速するものと考える。