コンサルタントコラム

気候変動研究の最前線

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
自然災害リスク計量、気候変動、水文学
役職名
総合企画部 リスク計量評価グループ 主任
執筆者名
木村 雄貴 Yuuki Kimura

2021.10.13

近年、大雨による異常災害が多発しており、2021年においても熱海市で土砂災害をもたらした7月の豪雨、多くの観測点で平年の何倍もの雨量を記録した8月の豪雨が発生した。気象災害が発生したときに良く耳にする言葉が「気候変動の影響」であり、当該影響を解明すべく、長年にわたり多くの機関・研究者が尽力している。

ご存じの方も多いと思うが、2021年8月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)より第6次報告書の一部が公表された。当報告書では、カテゴリー4・5の強い熱帯低気圧の割合が温暖化によって全世界的に増大すること、温暖化による豪雨増加が多くの地域で観測されつつあること等が記載されている。

上記のとおり、IPCCの第6次報告書には多くの研究成果が記載されている。今回は、関連する最新の研究成果として、芝浦工業大学の平林教授、東京大学生産技術研究所の山崎准教授、およびMS&インターリスク総研で行った2つの研究について紹介したい。

1つ目は、洪水氾濫域の増減傾向を検出するための手法の開発である。「過去期間において洪水の頻度が増加しているのか?」といった問いに答えるには、観測データが必要であるが、河川流量に関する観測機器の設置状況については国や地域によって大きくばらつきがある。河川流量の観測データがない地域における洪水頻度の増減傾向を把握するために、当研究では数百万枚の衛星画像で洪水発生や規模の増減傾向の検出が可能かどうかを調査した。その結果、衛星画像から抽出した河川氾濫域の水の存在比の変化は、河川の年間最大流量の増減傾向と相関が高いことがわかった。これによって、河川流量の観測が無い地域においても、洪水頻度の変化を衛星画像から検出できる可能性を新たに示すことができた。

2つ目の研究では、イベントアトリビューションという手法を使い、洪水発生への地球温暖化による影響を確認した。イベントアトリビューションとは、大規模アンサンブル実験(コンピュータの中で少しずつ条件を変えて計算し、多数のパラレルワールドを作成したデータセット)を行い、近年の洪水や渇水等の極端イベントに対する地球温暖化の影響を同定する手法である。22の洪水イベントを対象に地球温暖化の影響を確認したところ、64%にあたる14イベントについて、その発生しやすさが変化していた。北半球への降水量の増加や、気温の増加による積雪量の減少などが原因となり、融雪による春の洪水は、地球温暖化による影響を受けやすい(8洪水中7洪水が増加または減少)ことを解明することができた。

リスクコンサルティングを通じてお客様から伺った課題を解決するために、今後も先生方と一緒に研究を進めていき、その成果を産業界に発展させていきたい。例えば、気候変動にともなう洪水リスク変化の定量的評価を高度化することで、企業の持続的な事業計画策定に貢献できると考える。産学連携は、大学の研究成果を産業界・社会に還元し、新産業の創出やイノベーションの促進の一助となる。既に様々な企業で大学との共同研究がなされているが、日本だけでなく海外での競争を勝ち抜くために、企業は大学との共同研究をより一層拡大していくことが重要であると考える。世界における日本のプレゼンスを高めるためにも、産学連携が拡大していくことを期待したい。

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