コンサルタントコラム

「従来型」BCPから「オールハザード型」BCPへ

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
BCM全般
役職名
リスクマネジメント第四部 事業継続マネジメント第二グループ 上席コンサルタント
執筆者名
岩田 祐治 Yuji Iwata

2021.8.4

日本企業はこれまで「地震リスク」を最大の事業中断リスクとしてとらえ、事業継続取組を進めてきた。この「地震リスク」という中断「原因」を念頭に置いた上で、「どこで」「どのような災害が起きて」「どのような被害を受ける」という、「被災シナリオ」を作成して、BCPをはじめとする各種事前対策を実施してきた。

しかし、近年、水災、感染症、ブラックアウト等リスクが多様化してきたことで、この「地震リスク」に偏重した「従来型」のBCPは二つの課題を露呈した。一つ目は、様々なリスクごとにBCPを作成しなければならない点、二つ目は、「被災シナリオ」どおりに事象が発生しない「想定外」の事態に対応できない点である。

そこで、日本では改めて、地震以外の水災、感染症等を含む非常事態を対象とした「オールハザード型」BCP整備の必要性が叫ばれている。

「オールハザード型」BCPとは、個別の災害や特定のリスクといった非常事態発生の「原因」ではなく、非常事態発生によって「結果」として生じる、例えば、要員の不足、停電、機器の故障、工場全体の操業停止、輸出入制限やサプライヤー被災による部品調達不足などの「経営資源(リソース)の毀損」に着目して考察するBCPである。この考え方に立てば、想定外の事象(原因)で非常事態が発生した場合でも、「リソースの毀損」を前提に戦略・対策を立てている限り、これらの戦略・対策は有効に機能する。

それでは、「オールハザード型」BCPはどのように構築すれば良いのであろうか。

MS&ADインターリスク総研は、既に「従来型」BCPがある企業においては、これらを廃止して一から作り直すのではなく、「オールハザード型」の考えを「付加」することで、これまでのBCPを見直す・ブラッシュアップすることを推奨している。その際重要となるのが、避難誘導や安否確認など人命に関わる「初動対応」と、重要な業務の継続、復旧を優先する「事業継続・復旧対応」を分けて整理することである。

具体的には、リスクが顕在化した直後の「初動対応」においては、地震や水災、感染症等の「原因」によって対応内容が異なること、また、人命安全確保に関連した非日常的な対応を求められることから、個別のリスクごとに想定されるシナリオに応じた、具体的な対応内容を記した手順・マニュアルを定めておくことがむしろ有効である。したがって、「従来型」BCPで定めた「初動対応」部分は、そのまま活用する方向でブラッシュアップするとよいだろう。

また、「事業継続・復旧対応」においては、「リソースの毀損」を前提に、現地復旧戦略、代替拠点戦略、在庫の積み増し戦略、他社との連携戦略等の事業継続戦略や、これら戦略を実現するための事前対策を講じていくことになる。この際「従来型」BCPで想定していた「リソースの毀損」を前提に構築した戦略や事前対策はそのまま生かしながら、その他「リソースの毀損」が発生する可能性や、「リソースの毀損」の発生状況が変わった場合に既存戦略のままで問題ないか等を検証・ブラッシュアップしていくとよいだろう。

なお、「オールハザード型」BCPの詳細な内容等弊社オフィシャルサイトにおいて公開しているので、そちらもご参照いただきたい。(RMFOCUS 第78号 - 「従来型」BCPの限界と「オールハザード型」BCPの思想の付加

本稿が、リスクが多様化している社会において、各企業におけるBCPの策定・見直しに資する取組のきっかけとなれば幸甚である。

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