コミュニケーションと安全風土
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- 交通リスクマネジメント
- 役職名
- リスクマネジメント第二部 交通リスクマネジメントグループ マネジャー・上席コンサルタント
- 執筆者名
- 近藤 真文 Masafumi Kondo
2021.6.4
交通リスクを担当するコンサルタントとして、特に、運送事業者の運行管理の場面において、新型コロナウイルス感染症の影響で運転者と管理者のコミュニケーションの取り方が変わってきていることを強く感じている。
コロナ前には、集合研修や日常的な会話の中で、運転者と管理者がコミュニケーションを行う機会が多くあったが、コロナの影響で研修実施や会話が減ってきているという話をよく耳にする。
ある運送会社へ訪問した際、運行管理者が運転者とどのような会話を交わしているか確認したところ、現場は非常に忙しく事務的になっており、会話や指示ができているとはいえない状況だった。また、実際に事故が多いと聞いた。そこで、事故を起こした運転者を含め、当時どのような状況で事故が発生したのか話を聞くことにしたが、実は運転者は本当の事を話しておらず、本業以外に会社に内緒でアルバイトをしていたということが判明した。本来睡眠に使うべき時間に働いており、運転者は睡眠不足だったのである。そもそも論外ではあるが、それを言い出せないくらいの事情が本人にはあり、その後、運行管理者らと相談し、副業をしなくても済むようなシフトにするなどして改善されたという事例があった。
運送事業者においては、運行管理者は普段の業務で運転者の運転ぶりと併せて、運転者に質問し、問題点がないか確認する必要があるが、そのためには常日頃から人間関係ができている必要がある。それができていなければ、運転者は何か起こった時に、果たして本当の事を管理者に言ってくれるのだろうか。
安全運行におけるコミュニケーションの目的は、言いにくいことでもきちんと言って、指示を聞いてもらえる信頼関係の下に、確実に安全運転をさせることと考える。例えば、運転者は運行管理者の言葉に渋々耳を傾けているかもしれない。運行管理者が「今日も安全運転よろしくね」と運転者の身の安全を気に掛けていることを伝えることも大切だろう。
ほかにも、運転者の出身地で大きな自然災害が発生したことや、子どもが高校受験を控えていることなど、気になっていることや悩んでいることをオープンにしてもらい、運転者が安全運転に集中できれば、事故の未然防止、ひいては労働環境の改善にもつながる。
安全運行のためには運行管理者は、運転者に対して関心を持っていなければならない。
運転者が運行管理者の話を聞くかどうかは、やはり日頃のコミュニケーションが大切である。人間関係ができていれば、例えば運行管理者が運転者の良い点を褒めたり、心配していることを伝えたうえで、一時不停止を厳しく注意したとしても、耳を傾けてくれるだろう。
これらの話は、運送事業者に限った話ではない。白ナンバーの社有車を使用する多くの企業の管理者の皆さんにとっても、運転者に安全運転も業務のうちであることを意識させ、日々の安全運転を実行させるには、安全運転に関するコミュニケーションを是非確保するように心がけていただきたい。
コロナの状況下においても、経営者・管理者が安全に対するリーダーシップを発揮し、社員と一体となりながら安全風土を構築し、安全意識を高める取り組みは欠かせない。