コンサルタントコラム

複合災害に備える

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
自然災害リスク、洋上風力発電の事業リスク
役職名
リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第一グループ 主任コンサルタント
執筆者名
小川 陽平 Yohei Ogawa

2021.4.20

世界でコロナ禍収束の道筋が未だ不透明な中、近年の自然災害激甚化の傾向もあり、従来型の個別リスク毎のBCPにおける課題が浮き彫りになっている。日本経済団体連合会からもオールハザード型BCPへの転換の提言がなされ、企業の「複合災害」に対する備えの必要性が高まっている。実際にコロナ禍における初めての大規模な自然災害であった令和2年7月豪雨では、感染防止の観点からボランティア(人的リソース)の受け入れが制限されたり、避難所の開設において感染防止対策が今まで以上に求められるなど、復旧に少なからず影響を与えたものとみられる。

そこで本稿では「複合災害に備えるBCP」策定のポイントを以下のとおり3点に絞って検討・整理した。本検討では個別リスクの想定ありきではなく、複合災害の発生によって生じるリソースへの影響に着目することで、あらゆるリスクに耐えることを念頭に置いた。

(1) 社員の安全と対策本部要員の確保

感染症流行下での複合災害発生時は、対応要員となる人的リソースの安全を守ることが何よりも重要となる。安否確認システムの整備、訓練を平時から行うとともに、社員の安全確保の観点から在社従業員用の非常用食料品や飲料水、救急セットなどの一般的な災害用備蓄品のほか、マスク、消毒液、パーティション、養生シート、テント、専用トイレなどの衛生資機材を一定数準備する。

また所定の対策本部を確実に機能させるために、社内クラスターや従業員の居住地・家族構成などを踏まえ、一定の対応不能人員を見積もったうえで対策本部要員の構成を検討する必要がある。具体的には対策本部要員の所属部署の分散化や参集範囲基準の設定などが挙げられる。

(2) 対策本部の運営ルール策定

在宅勤務を想定した対策本部用情報共有ツールのハード・ソフト面の整備や、複数の代替的な対策本部設営場所の整備、ならびにそれに対応した運営ルールを策定する。対策本部の運営方法については、複合災害発生時の物的リソース(電気、通信、交通)の被害状況に依存することから、可能な限り複数の代替案を持つことが望ましい。

また策定されたルールに対する対策本部要員への教育・訓練を実施することにより、ルールの実効性を向上させることが重要となる。訓練では考え得る様々な複合災害(地震、台風、感染症、サイバー等の複合的な組合せ)を想定するとともに、従来の対面型のみならずWebツールを活用した非対面などの各種方法で実施されたい。

(3) 優先すべき重要業務の洗い出しと必要なリソースの整理

事業継続上優先すべき重要な業務を洗い出し、自社在庫やサプライチェーン、社会的供給責任等を総合的に勘案したうえで目標復旧時間(RTO:Recovery Time Objective)を定め、RTO内に重要業務を実施するための必要な人的・物的リソース(設備、インフラ、関連部門、取引先など)を整理する。ここでは平時において自社が有するリソースの現状を定量的に把握するとともに、それが複合災害の発生によって受ける影響を評価する。発災の影響を受けた後のリソースと重要業務に本来必要なリソースとの差を把握し、その差を埋めるための代替手段確保の方策を検討する。その際は必要に応じてRTOの再検討も実施する。なお感染症まん延期では、出社抑制や移動制限に伴い他の地域などからの応援が困難となり、人的リソースが制限されるおそれのあることに留意されたい。

以上が「複合災害に備えるBCP」策定のポイントとなる。昨今、地球温暖化など気候変動によって出水期の水災リスクは高まっているともいわれている。本稿をきっかけとして「複合災害に備えるBCP」の策定を早期にご検討いただければ幸甚である。

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