コンサルタントコラム

所属
インターリスク・上海
役職名
董事 総経理
執筆者名
飯田 剛史 Takeshi Iida

2021年3月29日

筆者は中国に駐在し、企業のリスクマネジメントに関するコンサルティングを生業としている。当地でもコロナ禍を経て、事業継続計画(BCP)の整備・見直しに取り組む企業が増えている。しかしながら、リスクマネジメントに精通した人材を現地に配置している日系企業は少なく、多くの現地担当者は専門外のテーマに苦闘している。こういった現地担当者がBCP整備に取り組むためのコツをいくつかお伝えしたい。

①想定リスクを一つに絞る必要はない

海外ではBCPの想定リスクを一つに限定するのはあまり現実的とはいえない。国ごとに事情は異なるが、あるリスクが突出して高いというより、いつ、何が起こるかわからない不確実性こそが、海外事業に特有のリスクだからである。従って、ある特定のリスクに対して集中的な対策を実施するよりも、幅広いリスクに適用可能な対策として、緊急時の体制構築や、緊急連絡網、緊急時のTo-Doリストの整備等に注力することをお勧めする。

②BCP文書の構成・体裁にこだわりすぎない

BCPの主な目的の一つは、緊急時に参照して「いつ、誰が、何を、どのように」実施すべきかを速やかに把握することである。従って、法律条文のように文字を羅列して記載するよりも、To-Doリストのように一覧性のある形式で整理した方が効果的である。発災直後からの時系列に沿って、緊急時の組織ごとに、実施事項を一覧表に整理するイメージである。リストや情報整理用の帳票を多用してBCPを組み立てると、わかりやすくコンパクトなBCPとなるはずである。

③「代替生産」について考えすぎない(製造業の場合)

複数拠点で同一製品を生産できる製造業の場合、ある生産拠点が被災した場合の事業継続策は、「現地復旧」と「代替生産」から選択できる。このうち、後者についてどの程度検討しておけばよいか、悩む現地担当者は少なくない。代替生産の実現には、本社の生産統括部門や他の工場との複雑な事前調整が必要となるからである。

しかし、本来的には代替生産はグループ全体の経営戦略そのものであり、本社主導で進めるべきテーマである。従って、海外拠点は「現地復旧」に絞ってBCPを検討するべく、事前に本社と役割分担を整理しておくと良い。

④コロナ禍の経験をもとに、感染症BCPを整備する

コロナ禍への対応にあたり、過去の感染症(SARSや新型インフルエンザ)の経験がほとんど活用できなかった、という声を多くの企業から耳にした。人の入れ替わりがある中、当時の記録が社内にほとんど残っていなかったためである。特に海外拠点では、駐在員は数年サイクルで入れ替わり、現地社員の流動性も高い。コロナ禍を現地で経験したメンバーが揃っているうちに、教訓や反省を踏まえたBCPを整理しなければ、得難い経験やノウハウがいずれ霧散してしまう。

まず、今般のコロナ禍における社内外の状況を時系列で整理し、どの状況でどのような対策を実施したのか、その対策の効果は十分であったか等を検証し、これをベースに未知の感染症への備えとして、フェーズに応じたTo-Doリストを作成すると良いだろう。

海外拠点では、リスクが多岐にわたる一方で、予算や言語の壁といった制約もあるため、リスクマネジメントの推進には常に困難を伴う。数ある課題に対する優先順位付けをしっかり行った上で、できるだけシンプルかつコンパクトな対策を志向することが重要である。

以上

(2021年3月18日 三友新聞掲載記事を転載)

飯田 剛史 Takeshi Iida
氏名
飯田 剛史 Takeshi Iida
役職
インターリスク・上海 董事 総経理
専門領域
BCM/BCP(事業継続マネジメント)

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