コンサルタントコラム

所属
リスクマネジメント第四部 医療福祉マーケットグループ
役職名
テクニカルアドバイザー
執筆者名
髙澤 壽子 Hisako Takazawa

2021年3月1日

新型コロナウイルス感染症の発生からすでに1年以上が経過した。世界では感染者数が1億人を突破するパンデミックとなり、日本でも感染者数の増加と医療体制の危機が連日報道されている。この長期化する非常事態の中で、事業者においてはどのように感染症のリスクと向き合いながら業務を行えばよいのか、その対応の一つとして感染症に対する業務継続計画(感染症BCP)への関心が高まっている。

弊社医療福祉マーケットグループでは、今年度、社会福祉施設を対象とした国や地方自治体の感染症BCP策定支援事業に携わってきた。社会福祉サービスは、利用者やその家族の生活を直接支えているため業務継続の必要性が非常に高い業種である。その一方、高齢者や基礎疾患を持つ等、抵抗力の低い利用者を対象とし、食事や排せつなど密接したケアが多いため、感染リスクが高い業種でもある。多くの施設から、感染症BCPを作りたいがどのような内容を書いたらいいか分からない、作成する時間もないという切実な声を聞きながら、出来る限り現場に即したガイドラインの作成や研修会に取り組んできた。

本稿ではこれらの経験を踏まえ、社会福祉施設におけるBCP策定のポイントを2点お伝えしたい。

①報告体制を明確にする。

感染(疑い)者が発生した際、まず最初に重要なことは報告である。そのためには、感染疑い時点、PCR検査時点、陽性判明時点の3つのタイミングにおいて、それぞれ報告先、報告担当者、報告内容を明確にしておく必要がある。この報告体制を従業員に周知徹底することがスムーズな対応の原点となるため、報告先を一覧化してフローチャートに示すことや、報告内容のフォーマットを事前に準備しておくことも有用である。ただし、この報告先や内容については個人情報にも十分配慮するようにお願いしたい。

②業務の優先度を分類する。

例えば従業員に感染者が複数発生した場合等、通常通り業務を行うことが困難になった場合に、どの業務を優先して行うのか明らかにしておくことが重要である。具体的には、現在行っている業務を「継続業務」「変更/縮小業務」「休止業務」の3つに分類し、感染症対応のために新たに必要となる消毒等の業務を「追加業務」として、この4つを事前に分類しておく。薬の管理や食事など生命に関わる業務は継続業務として優先度が高く、入浴やリハビリ、レクリエーション等の集団活動は方法の変更/縮小や休止を検討しても良いかもしれない。この分類の基準や業務内容は社会福祉分野の特徴でもあり、利用者の生活そのものに直結するため慎重な検討が求められる。そして、分類したそれぞれの業務に対して具体的な手順書を作成していくことによって、より現場で生かせるBCPとなる。

以上、簡単ながら社会福祉施設における感染症BCP策定のポイントを紹介した。上記の考え方は一般企業においても通じるものである。

今は新型コロナウイルス感染症の1日も早い終息を願うとともに、この状況だからこそ必要性が高まっている感染症BCPの策定支援を通じて、社会基盤の一役を担う社会福祉サービスの維持に微力ながら貢献できるよう取り組んで参りたい。

以上

(2021年2月18日 三友新聞掲載記事を転載)

髙澤 壽子 Takeo Anzai
氏名
髙澤 壽子 Hisako Takazawa
役職
リスクマネジメント第四部 医療福祉マーケットグループ テクニカルアドバイザー
専門領域
医療機関・介護福祉事業所のBCP、医療安全、周産期領域

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