コンサルタントコラム

コロナと気候変動

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
生物多様性配慮型企業緑地、グリーンビルディング、再生可能エネルギー、省エネ・節電
役職名
リスクマネジメント第三部 サステナビリティグループ グループ長
執筆者名
安齊 健雄 Takeo Anzai

2021.2.5

コロナと気候変動、この2つの危機は私たちを未曽有の混乱に陥れているが、これをどのように捉えるべきか整理してみたい。コロナに代表される感染症の要因の1つに、農耕社会の定住化によって野生生物を家畜化した結果、家畜に共生していたウイルスが人間へ感染したことがあげられる。具体的には、天然痘(ウシ)、インフルエンザ(アヒル)などだ。また作物が多く採れる余剰で繁殖したネズミやノミがウイルスを媒介したり、都市化・戦争・交易などによって人や物の往来が増えることで感染の拡大がおこった。また18世紀の産業革命以降、森林破壊で生息域を追われたサルやコウモリに共生していたウイルスが人間へ感染した。具体的にはエボラ(コウモリが疑われる)、AIDS(サル)、MARS(ヒトコブラクダ)などがあげられる。感染症の被害は、直接的で甚大かつ広範囲である。対策は周知の通り、マスクや手洗いの励行、経済・文化活動の縮小などであるが、私たちの負担意識は非常に大きく、我慢を強要する。抜本的解決は何かといえば、ワクチンや新薬の開発や医療体制の整備であり、最終的には免疫など人間とウイルスとの新しい共生関係といえるだろう。感染症の特徴としていえるのは、社会そのものを変えてしまうということである。中世のペスト流行の後、教会の権威は失墜しその後の国民国家が誕生した。交易の発展に伴いヨーロッパの感染症が新大陸(南北アメリカ)で流行した後のスペインの覇権や、1918年~1919年にかけてのスペイン風邪の後、アメリカが世界の覇者となるなど、感染症は社会そのものを変え、いつも変化の先駆けとなってきたのである。

一方、気候変動の要因は、産業革命以降の化石燃料の大量消費によるCO2などの温暖化効果ガスが大量排出、また森林破壊によるCO2の吸収固定量の減少などがあげられる。気候変動による被害として近年の異常気象による激甚災害があげられるが、被災地にとっては直接的であるものの、それ以外にとっては間接的である。感染症と違い、「いつかは来るが、いつ来るかはわからない」という取り組みにくさがある。パリ協定によって世界は「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く、1.5℃に抑える努力をする」と約束した。具体的には、個人から企業・国レベルで、省エネや再生可能エネルギーの推進、化石燃料の消費を抑えることであるが、個々の努力が全体の削減効果にどう寄与するかがわかりにくいことから、負担感が蔓延しがちである。パリ協定の各国の削減目標を積み上げても、2100年までに平均温度上昇を2℃未満に抑えることは不可能に近いといえる。抜本的解決としては社会の在り方や、エネルギーシステムを根本的に変え、化石燃料消費社会からの卒業と新しいエネルギーシステムの構築が必要なのである。

以上2つの危機の要因と、社会への影響や対策などについて整理した。感染症は家畜化等で野生生物と人間社会が近づき過ぎたことが原因であるし、気候変動は過度な化石資源利用や無秩序な森林破壊によるものである。共に生き物を含む地球環境に対して、拡大する人間社会側が持続可能で共生できる関係を築けなかったことにより起こったもので、2つの危機の根は同じところにあるといえる。感染症は今回のコロナが終息しても、また新たなものが発生することはその歴史から明らかだ。日本政府は12月に2050年の脱炭素社会の実現を宣言したが、今後エネルギー構造の大転換を行う中で、激甚化する災害に毎年のように見舞われるであろう。もはや2つの危機は、コロナか?気候変動か?という個別の問題ではなく、2つに対して常に備え、常に対策を考え続け、人間社会側のレジリエンスを強化していくほかはないと考える。

参考

  • 感染症と文明 -共生への道 山本太郎 岩波新書 2011年
  • ホームページ みんなの電力 ENECT 江守正多 コロナと気候変動、その共通点と相違点
  • ホームページ WORKSIGHT 山本太郎 新型コロナに学ぶ、異質なものと共存するための知恵

以上

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