コンサルタントコラム

所属
リスクマネジメント第一部 労災・安全文化グループ
役職名
上席コンサルタント
執筆者名
近藤 亮介 Ryosuke Kondo

2020年6月15日

1986年に発生したチェルノブイリ原子力発電所の事故の調査を行ったIAEA(国際原子力機関)の報告書において「Safety Culture」という言葉が初めて用いられた。事故の報告書において、運転員の規律違反・操作ミスなどが事故の引き金とはなっているが、その背景には組織の管理体制やチェック体制の不備・コンプライアンス違反・リスク管理の甘さなど職場の組織風土の問題に根ざした要因が重なり発生したと分析されている。その後、原子力や航空・鉄道・化学プラントなどの潜在的危険性の高い産業分野を中心に「安全文化」という言葉が用いられるようになり、近年では様々な事業者においても「安全文化」を醸成すべきであると認識されるようになってきた。

近年、国内で発生した重大事故・事件の背景要因には「設備の老朽化」や「事業環境の変化」などの当該組織が置かれている状況がある。そのほか、「当事者への責任追及」や「時間制限による焦り」・「組織内外のコミュニケーション不足」など個人や小集団の意識・行動に関する項目が事故の背景原因として報告されており、組織風土や慣行が個人の意識や行動に影響を与え、結果的に大事故に発展している事例が多く見られる。

企業においては、事故を防止するために、安全設備の導入、教育・訓練、安全に関する管理手法等を定めることで、ハード面とソフト面の両面から事故防止対策が講じられることが多い。しかし、システムを動かし管理するのは人・組織であることから、組織要因に根ざすリスクを評価し、具体的かつ実践的なアプローチを提案し、各組織独自の活動として定着させる必要がある。そのためには、発生した事故の原因をヒューマンエラーという言葉で片付けるのではなく、背後にある管理や組織要因に注目することにより、「安全文化」を醸成しようとする取り組みが求められる。「安全文化」とは、一言でいえば「安全を最優先する企業文化」であると言えるが、安全文化醸成には時間がかかり、短期間で容易に劣化するという特徴があるため、効果が見えるようになるまで継続した取り組みが必要になる。これらの特徴も含め、マンチェスター大学のジェームズ・リーズン博士は「安全文化」について、「安全文化とは、(事故への)恐れを忘れずに安全性向上への努力を継続することであり、組織全体の価値を共有することである」と述べている。

事故発生を予防するための安全防護策は長い年月を経て劣化していくため、無意識のうちに安全性軽視や工程優先といった意識や行動が生じることがある。そこで、組織に所属する全役職員を対象に安全意識・行動に関する組織の安全文化を見える化することが必要であると考える。組織の安全文化醸成度を定量的に診断し、診断結果より得られた組織の改善方法を検討する企業が増えている傾向にある。当社が行っている安全文化醸成コンサルティングでは、「安全文化診断」より得た結果に基づいて安全に関する階層別研修の他、安全モデル職場支援などを実施しており、全社的なマネジメントのレベルアップを図り安全文化の定着につなげている。

企業にとって安全性向上への努力を継続することは、風通しのよい、活き活きした組織をつくることであり、品質向上・生産性向上にもつながる。安全を現場だけの問題として考えるのではなく、組織全体で高いレベルの「安全文化」の醸成を目指していくことが今後ますます重要になると考えられる。

以上

(2020年5月28日 三友新聞掲載記事を転載)

近藤 亮介 Ryosuke Kondo
氏名
近藤 亮介 Ryosuke Kondo
役職
リスクマネジメント第一部 労災・安全文化グループ 上席コンサルタント
専門領域
労働安全衛生

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