コンサルタントコラム

あらためて見直す、事業所の水害リスク

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
地震、風水害などの自然災害に関するリスク分析、評価リスクコンサルティング
役職名
リスクマネジメント第一部 災害リスクグループ グループ長
執筆者名
三和 多賀司 Takashi Miwa

2019.12.13

本年の台風19号では各地で河川の決壊、氾濫、土砂災害など甚大な被害が発生したが、その被害の様相を振り返り、あらためて見直すべき事業所の水害リスクへの備えについて触れたい。

(1) 過去の被災経験のみに頼らない

過去最大の降雨や、改修済みの堤防の決壊、工場の既設の防水壁を超えた浸水など、過去の経験を超越した事例が多数見受けられた。
浸水想定区域図(洪水ハザードマップ)による事業所の水害リスクの確認の必要性については再三にわたって叫ばれているが、浸水想定区域図には河川整備において基本となる降雨を前提とした「計画規模」によるものと、想定し得る最大規模の降雨(国管理河川では、大半の河川で年超過確率1/1,000程度の降雨量を上回る)を前提とした「想定最大規模」の2種類が多くの河川で公開されている。
国土交通省の「ハザードマップポータルサイト(https://disaportal.gsi.go.jp/)」や「浸水ナビ(https://suiboumap.gsi.go.jp/)」を活用し、あらためて自社事業所の水害リスクの確認をしておくことが重要である。

(2) ハード・ソフト両面の水害対策

想定最大規模の浸水想定区域図では、想定浸水深が5mや10mに及ぶ地域も多数あり、万が一現実のものとなれば、防水壁や設備の嵩上げなどのハード対策のみで被害を防ぐことはできない。ハード面の対策で対応すべきことに加え、緊急避難措置、代替生産体制の構築、早期復旧戦略の検討などソフト面で対応すべきことも並行して検討しておくことが必要である。究極的には事業内容の見直しや事業所の移転なども視野に入れざるを得ない。

(3) 災害用非常設備や備品、防災拠点の浸水対策

災害用備蓄倉庫や非常用発電機が水没するなど、災害時に必要な施設が被災し、その機能を発揮できなかった事例が発生した。浸水の可能性を最大限考慮し、嵩上げや移設などを行っておく必要がある。

(4) 大量の災害廃棄物の発生を予期した対策

大量の災害廃棄物が空地や道路を埋め尽くしたうえ、焼却場が浸水し、処理の長期化が想定されている。
自治体が行う廃棄物処理は一般家庭から排出されたものが優先され、事業所の災害廃棄物は「事業系一般廃棄物」あるいは「産業廃棄物」として事業者の責任で処分が必要となる。
事業所が平常時に委託している産業廃棄物処理業者が被災した場合、廃棄物の処理が滞り、事業の早期復旧にも影響が及ぶこととなる。BCP対策では原材料の供給や物流対策を優先しがちであるが、大量に発生する廃棄物の早期処理の観点にも留意すべきである。

(5) 毒劇物の流出、漏えい防止対策

工場に保管するシアン化合物や熱処理油(8月の九州北部における豪雨)が流出する事故が発生した。
自社で使用している危険物や毒劇物など、流出により周辺地域に影響を及ぼすものがないか確認し、流出防止対策による公衆災害の発生防止を検討しておく必要がある。
貯蔵施設での封じ込め(浸水防止、密閉)、貯蔵施設周囲での封じ込め(防液堤、回収升)、敷地内での封じ込め(排水処理設備、排水溝の閉止)など、段階ごとに講じる必要がある。

(6) 従業員への防災教育を見直す

水害時の避難は徒歩、夜間や周囲に浸水が発生している状況では外出せず上階へ避難することが基本であるが、自動車での避難途上で水没して亡くなる例が多く見受けられた。
形骸化した防災教育・訓練を見直し、従業員とその家族の生命を守るため、災害時に役立つ防災知識を提供していく必要がある。

以上を参考に、事業所での水害対策の再検討のきっかけとしていただきたい。

以上

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