コンサルタントコラム

タイにおける洪水再発への備え

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
海外リスクマネジメント
役職名
インターリスクアジアタイランド 社長
執筆者名
服部 誠 Makoto Hattori

2019.11.12

タイにおける2019年の降水量は例年に比べて少なく、主要ダムの貯水量も大幅に減少している。2011年の大洪水の原因となったチャオプラヤ川の水位は9月中旬以降減少傾向にあること、またタイ気象局によれば雨季は10月中旬に終了し、乾季に移行後は一層の降雨量の減少が見込まれることなどから、2019年は大規模な洪水が発生する可能性は低いと言える。

タイに進出する日系企業数は2011年の洪水後も順調に増えており、現地の盤谷(バンコク)日本人商工会議所における2019年の会員数は2011年当時から約34%増の1772社となっている。また進出企業はタイ国内におけるサプライチェーン強化の観点から原材料・部品などの現地調達率を引き上げる流れにある。

資産はより集積し、サプライチェーンの脆弱性は高まっていることから、2011年と同等以上の洪水が発生した場合には、当時と比べてより大きな損害が発生する可能性は否めない。

こうした状況もあってか、近年になり洪水に関するお客さまからの照会が増えつつある。その多くは、洪水再発による自社資産の被害に加えて、自社が原因となってサプライチェーンが寸断することで取引先などへ与える悪影響への不安、また、洪水が発生した際に近隣の他企業は対策実施が功を奏し被害を回避できたにも関わらず自社は洪水対策が不十分で被害を被った際の風評被害への不安、あるいは、2011年の洪水直後は様々な対策を策定したものの既に8年が経過しておりこうした取り組みが形骸化していることへの危機意識によるものである。

実際、洪水対策は企業によってかなりの温度差があると感じている。防水壁で囲われた工業団地に入居しているにも関わらず、さらに独自で自社敷地を防水壁や堤で囲う企業、また主要な生産・品質検査工程・ユーティリティなどを全て2階に設置し、1階に設置せざるを得ない重量のある製造設備などについては短時間で設置できる防水壁で防護する企業、あるいは重要設備を分解してパーツを高い場所に一時的に移設することをルール化し、分解・移設訓練を定期的に実施している企業など、高いレベルで洪水対策を実施している企業がある。

一方でハード面の洪水対策は工業団地や国の治水インフラに依存して独自の対策を取らず、またソフト面でも洪水BCPが未策定な場合や、策定していてもその後の見直しや訓練を実施していなかったり、トップにBCPが引継がれておらず、新任の拠点長・役員などがその存在を知らないなど形骸化しているケースも多い。

幸いなことに、2011年の大洪水以降、同規模の洪水は今のところ再発していない。しかしながら、過去においてもそうであったように洪水は今後も発生する可能性があると考えるべきである。

バンコク周辺ではかつて洪水の際の遊水地や海への放水路として活用されていた土地においても急速な開発(工業化・宅地化)が進み洪水対策機能が著しく低下し、かつ資産が集積したため洪水リスクが高まっているエリアが増えている。こうした環境の変化に対する国の対応は基本的には対症療法かつ長期的な取組みが多い。

進出企業はこのようなタイの洪水リスクを取り巻く環境を認識したうえで、備えることが重要である。

以上

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