コンサルタントコラム

気象災害に対する地球温暖化の影響評価手法

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
自然災害リスク計量、気象学、気候学
役職名
総合企画部 リスク計量評価グループ 主任コンサルタント
執筆者名
越前谷 渉 Wataru Echizenya

2019.5.13

2018年は7月豪雨、台風21号、台風24号と大規模な気象災害が多発した年であった。気象災害が発生したときに良く耳にする言葉が「地球温暖化の影響」である。大雨が降ったのは地球温暖化の影響なのか、あるいは将来温暖化が進行すると災害は激甚化するのか、といった点は十分に興味を惹く内容であろう。また、金融安定理事会(FSB)によって設置されたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に伴い、企業においても温暖化を含めた気候変動の影響を把握することは重大な関心事になってきている。

ところが、「地球温暖化の影響」と言葉にするのは簡単である一方、その影響を定量的に把握するのは難しい。対象となるのは我々の住んでいる地球であり、易々と実験を行うことはできない。そこで助けとなるのが数値モデルによるシミュレーションである。天気予報が行われているように、気象現象は数値モデルによりある程度表現され、コンピュータの中で台風をシミュレートすることも可能である。そして、研究の積み重ねにより数値モデルを用いた温暖化の影響を評価する手法が考案されており、今回はそのうち2つの手法を紹介したい。

1つ目はシナリオベースのアプローチとなる擬似温暖化実験である。これは、特定のイベントを対象として「もし同じ災害が温暖化の進んだ環境で起こったら?」を考える手法である。台風は水蒸気をエネルギー源としており、水蒸気の供給元である海の温度は台風の勢力に影響を与えるファクターである。そこで、数値モデルの中で現在の海と温暖化予測に基づく擬似的な環境として暖かい海を設定する。それぞれの環境で台風をシミュレートし、勢力の違いを見ることで温暖化の影響を調べることができる。もちろん海の温度だけを変えるのは非現実的なため、実際には他のパラメータも変更することになる。この手法ではイベントの発生頻度への影響を調べることはできないが、想定しうる最大級の勢力を伴うようなワーストケース台風シナリオの設定には有効な手段であろう。

2つ目は確率論的なアプローチである大規模アンサンブル実験である。アンサンブル実験とは、コンピュータの中で少しずつ条件を変えて計算し、多数のパラレルワールドを作成する実験である。この手法では、イベントの発生確率に着目して「今回の災害は温暖化の影響で発生確率がどのくらい増加していたのか?」、あるいは「現在100年に1度の頻度で発生する災害が、温暖化が進行すると何年に1度発生するようになるのか?」を考えることができる。例えば100個のパラレルワールドのうち、現在の気候では10個の世界で発生した災害が、温暖化した気候では20個の世界で発生するようになれば発生確率が倍増したことになる。この手法では確率論的な議論ができる一方、実験に必要な計算量は多くなる。

この2つの手法は大変有用なものであるが、モデルには不確実性があることに留意が必要である。シミュレーションには一定の仮定を置いている部分があり、設定する条件により結果は大きく変わることがある。そのため、計算された後の数字だけを見るのではなく、どのような過程で計算しているのか、モデルの弱点は何なのかといった部分にも目を向けることが重要になる。

以上

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