コンサルタントコラム

ビジネスと人権に関する最新動向「第7回国連ビジネスと人権フォーラム」に参加して

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
サステナビリティ / CSRコンサルティング、人権
役職名
リスクマネジメント第三部 環境・CSRグループ アシスタントマネジャー
執筆者名
木根森 敦子 Atsuko Kinemori

2019.2.12

国連が毎年ジュネーブで開催している「国連ビジネスと人権フォーラム」(2018年11月26~28日)に参加した。この会議は2011年に国連で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」の普及とその実施の推進を目的としており、今回で7回目の開催となる。国際機関、政府、民間企業、市民団体から約2,000名が三日間に渡る会議に参加した。

今回のテーマは人権デュー・ディリジェンスであった。前述の指導原則は企業に人権の尊重と事業活動により生じる負の影響に対処する責任を規定している。負の影響とは、原料調達現場での児童労働や宗教、国籍等を理由とした従業員への差別など自社内のみならず調達先等での人権侵害も意味する。この責任を果たすための取り組みが人権デュー・ディリジェンスである。今回の会議は特に人権デュー・ディリジェンスとしての企業の具体的なアクションに焦点が当てられており、国連がこの指導原則の実施において企業に高い期待を寄せていることがうかがえた。

会期中はAIや自動化などの最新技術や、金融、ICT等の業種をテーマとしたセッションが開催され、業種特有の人権課題の共有や業種の特性が人権尊重に果たせる役割等について議論が行われた。グーグル、アップル、ウォルマートといったグローバル企業の登壇も数多く見られた。企業からの参加者は全体の約29%を占め年々徐々に増加しており、企業の関心の高まりと人権尊重において企業の果たす役割が大きくなっていることが感じられた。

企業への期待の高まりは、一方でより厳しい目が企業に向けられることの表れでもある。登壇したグローバル企業の多くから、自社のみでは解決が困難だと思われる原料調達先での児童労働といった課題に対して、業界団体やNGO等と協調して取り組む事例が紹介された。これはマルチステークホルダー・アプローチと呼ばれ、解決が困難なことを理由にアクションを取らないことは容認されず、積極的に解決策を模索する姿勢が求められていることの表れと捉えることができる。先進的な企業の多くが、積極的な活動が実現した要因としてトップのコミットメントがあることを挙げており、人権が経営上の課題に位置付けられ、それを企業のトップが宣言することの重要性が改めて示された。

会期中は世界から集まった約2,000名による熱い議論に圧倒されるとともに、開催地がスイスという事情もあってか日本を含むアジアからの参加者の少なさに若干の寂しさを感じた。また欧州の先進的な取り組みに日本企業が取り残されるのではないかという危機感を持った。今後、企業の人権へ取り組む姿勢に向けられる目はますます厳しくなることが予想され、現状維持もしくは消極的な取り組みを続けることは、欧米の先進的な企業との競争にさらされる日本企業にとってビジネス機会の損失につながりかねない。今回の参加により、先進的な欧米企業をはじめとした世界の動向に注視する必要性を改めて感じるとともに、日本企業がいま一度自社の人権尊重の取り組みを見つめなおすことを期待したい。

以上

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