コンサルタントコラム

所属
リスクマネジメント第二部 交通リスク第一グループ
役職名
主任コンサルタント
執筆者名
渡辺 光彦 Mitsuhiko Watanabe

2018年12月26日

近年、高齢運転者の事故がテレビや新聞で取り上げられる機会が増え、徐々に社会の理解が進んできたのを実感している。社会の高齢化に伴い、高齢者の全事故に占める割合も高くなるため、報道機会が増えることは当然とも言える。「特に75歳以上の高齢者は身体的能力や認知機能の衰えから死亡事故に繋がりやすいこと」は既知のことだろう。

その一方で、16歳から24歳までの若年運転者の事故率は驚くほど高いことをご存じだろうか。警察庁「平成29年中の交通事故の発生状況」によれば、若年者の免許保有者に占める事故件数割合は、高齢者の2倍を超える。なぜ、若年者はこれほどまでに事故を起こすのか、その要因を考えたい。

警察庁の同統計において、若年者と全事故発生者を比較すると、法令違反別事故件数割合では、若年者で、「脇見運転」、「漫然運転」、「動静不注視」、「運転操作不適」の違反の割合が高いことや、危険認知速度(事故直前の速度)では、時速20㎞以下の低速度での事故が少なく、高速度での事故が多いという特徴が表れている。また、若年者は若いが故の運転技能・知識不足のほか、主な心理的特性として、(1)リスクテイキング傾向、(2)高い自己評価、(3)自己統制が未成熟なことによるリスク効用(リスクを取ることで得られる満足感)の影響の強さ、(4)意思決定の未熟さ等も要因として挙げられる。この他では、若年者の脇見等の潜在的要因として、運転中のスマートフォン使用・カーナビ注視が多くの事故に繋がっている可能性があることも考慮する必要があるだろう。

それでは、どうすれば事故を削減することができるのかについてだが、万が一、脇見等をしてしまった場合でも事故に繋がらないよう衝突被害軽減ブレーキ等のASV技術を導入することは事故削減に効果的であると言える。2018年9月3日に(公財)交通事故総合分析センターから、衝突被害軽減ブレーキ搭載車は未搭載車に比べて10万台当たりの対四輪車追突死傷事故件数が約53%低くなったという結果が発表されており、その効果が大きいことが伺える。

ここで、面白い事例を2つ紹介したい。

  1. ① ドイツのタクシー会社で3年間にわたってABSの効果検証をしたところ、ABS装着車と未装着車で事故率に有意差は見られず、装着車の方が急加速や急減速の危険運転行動が多かった
  2. ② フィンランドで、スリップ事故防止のため免許取得時にスキッド訓練(濡れた路面を横滑りする等の体験)を義務付けたところ、若年者のスリップ事故が増加した。

この理由の一つとして、人は安全対策を前提として「より危ない運転」をしてしまうためと考えられている。現代においては、安全対策が効かないほどの危険運転にはならないと言われているものの、事故防止の教訓となる事例である。

交通事故は必ずしも運転技能が下手な人が起こすわけではない。下手だと感じている人は減速や安全確認等の補償運転を行う一方、上手いと過信気味の人は、無理な追い越し等の事故リスクの高い運転をすることがある。

上記②の事例では、「速度の上昇がどのようにスリップを起こすのか」や「安全運転支援装置があっても、その効果がいかに限定的か」を教育することによって、その後、若年者の事故減少に結びついている。

いかに素晴らしいASV技術が開発されたとしても、人が運転するフェーズがある限り、より危ない運転をしないよう運転者のリスク目標水準を引き下げる教育をすることも重要である。また、若年者は心理面で未成熟であることから、時間をかけて教育する必要があり、経営者はそのためにコストをかける必要があることを忘れてはならない。

以上

(2018年12月20日 三友新聞掲載記事を転載)

渡辺 光彦 Mitsuhiko Watanabe
氏名
渡辺 光彦 Mitsuhiko Watanabe
役職
リスクマネジメント第二部 交通リスク第一グループ 主任コンサルタント
専門領域
交通事故防止コンサルティング