コンサルタントコラム

所属
インターリスク・上海
役職名
董事 総経理
執筆者名
石川 智則 Tomonori Ishikawa

2018年10月23日

当社は、在中国の日系企業の皆様に、火災や労働安全のリスク調査、BCP策定・訓練等のコンサルティング、KYTや安全運転をテーマにした社内研修サポート等を手掛けており、中国各地の日系企業が抱える事業活動上の悩みに接する機会が多い。私が赴任した2016年頃は、労務問題や社内不正に関わる話題が多かったと記憶しているが、近頃の経営者共通の関心は、強化が進む環境規制に対して如何に対処するかに向かっている。新たな当局からの要求や法執行の厳格化に頭を悩ます経営者が多く、対策が待ったなしであることは間違いない。

JETROが公表したデータによると、2017年1月~11月に環境規制違反で行政処分を受けた企業は、2015年比、処罰金額ベースで1.9倍、差押え件数ベースで4.4倍、生産制限・停止件数ベースで3.5倍と飛躍的に増加している。この増加には、環境政策に本腰を入れて取り組む政府方針の転換が背景にあり、施策レベルでは中央政府が組成した環境監査団による大規模な検査が影響している。監査団の目は、対象先企業だけでなく地方政府の検査スタンスにも向けられている。地方政府の過去の法執行状況を調査し、不正や汚職に厳しいスタンスで臨むと共に、企業に対する行政処分の執行状況を追及したため、地方政府は法執行を曖昧にできなくなった。この結果として、行政処分等が劇的に増加したものと考えられる。さらに、最近の報道では更に気になるデータが公開されている。2018年1月~8月の処罰件数を省別に見ると、江蘇省と広東省が上位に位置づけられている。江蘇省では蘇州市や無錫市、広東省では東莞市、広州市、深セン市、仏山市の処罰件数が多い結果となっており、日系企業の進出が多い都市でも調査が強化されていることが判る。

行政処分の影響は、罰金や操業停止命令等に留まらない。処分を受けた企業は、実名で当局のHPに掲載されるため、企業イメージの悪化が考えられる。また、顧客が行政処分の事実を知ると、自社のサプライチェーンへの悪影響を恐れて取引をためらうかもしれず、環境規制への適切な対応が中国で事業を行う上での必要条件になりつつあると感じる。それでは、企業はどのように対策を進めれば良いのだろうか。

先ずは、現在の対策の状況を正しく認識することから始めるべきである。環境規制は次々と更新され内容も複雑であるため専門家の支援を受けながら進めることが望ましい。特に、操業開始時に作成した『環境影響評価報告書』が適切に維持管理され、現状とのかい離が無いか確認すべきである。当局検査では、汚染物が基準値を超えていないかを問われるだけでなく、適切なドキュメントの維持も求められるのである。加えて、診断結果や改善すべき対策については、現地スタッフ任せにせず、経営層や日本人駐在員が自ら理解を深めて積極的に関与する必要がある。対策には一定のコスト負担が必要であることが多く、金額の多寡によっては、本社に対してコスト負担への理解を得なければならないからである。

本社の関係部門においては、中国における環境政策のパラダイムが既に変わり、今後ますます厳しさを増すものと認識した方が良い。中国現地任せにせず、本社が積極的に関与し、スピード感をもって対応にあたる必要性を強く感じる。

以上

(2018年10月18日 三友新聞掲載記事を転載)

石川 智則 Tomonori Ishikawa
氏名
石川 智則 Tomonori Ishikawa
役職
インターリスク・上海 董事 総経理
専門領域
ERM(統合的リスク管理)、会社法内部統制、企業の危機管理対策、コンプライアンス、会社役員賠償責任、その他企業のリスクマネジメント対策全般