コンサルタントコラム

車の自動化で、安全運転講習はお払い箱?

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
交通安全
役職名
リスクマネジメント第二部 交通リスク第二グループ 特別職
執筆者名
菅野 光久 Mitsuhisa Kanno

2018.6.28

「車が自動運転になると、もう、あなたの仕事は無いわね。」妻に言われた。更に続けて「出張での、時々のお土産、もう無いのね。」昨年は、100回以上出張し、全国各地で安全運転講習を実施した。「無事故運転をめざして」と題し、映像やデータを示し、質問しながら、参加者に考えてもらい、納得し、ついには感動して、自らの行動に移してもらう。そして安全運転のお手本になって頂く。“今だけ、此処だけ、貴方だけ”の講習内容に務め、手作り感いっぱいで参加者をその気にさせる。「ホントにそうなの?一人いい気になって話して、時間オーバーしたり、居眠りしている人がいたりして。肉まんなら好きだけど、不満のお土産はいらないわ。自動運転になる前にお払い箱ね。しっかりしてよ。」

政府が6月にまとめる成長戦略の原案では、緊急時だけ運転手が操作するレベル3の自動運転車を、2020年までに市販し、2030年までに国内新車販売の3割以上に普及させるとある(2018.5.30日経)。また、米国のコンサルティング会社によると、すべての運転を自動化し人は関与しないレベル5及びこれを高速道路等の一定の条件下としたレベル4の世界での新車販売は、2035年には23%になるという。現状では、ハンドル操作とアクセル・ブレーキ操作のいずれかを自動制御するレベル1及び両方を自動制御するレベル2が市販され、2016年では国内新車販売の自動制御装着率は、車線の中央付近を走行するようハンドル操作するレーンキープアシストで約13%、衝突を予測しブレーキ操作する衝突被害軽減ブレーキで約66%である。

自動制御を装着した車の所有者を対象とした国民生活センターのアンケート結果(2018.1.18公表)によると、4人に1人が急加速、急減速など想定外の動作を経験したとあり、作動条件の理解不十分や、機能の過信が事故につながるとして注意を呼び掛けている。2030年頃までをイメージすると、運転手が常にすべての操作を行うレベル0、一部自動化されたレベル1・2、一定の条件下ですべて自動化されたレベル3、そして歩行者、自転車、バイクも同じ道路上に存在する。この状況で何が起こるのか。レベル0同士や歩行者等との間で成立したであろう、手ぶり・目配せでの譲り合いが、他のレベルとでは通じ難い。レベル1・2では、リスクホメオスタシスが気になる。我々は、リスク水準を一定に保つように行動を調整する傾向がある。せっかく新しい技術で低減させたリスクを、別の行動で元の水準に戻してしまう。自動制御の装着で、以前よりスピードを出す、ブレーキを踏むタイミングが遅くなる、或いは脇見の多発が起こり得る。リスク水準は元のままである。

新技術の車と、従来の車が混在している。国交省は、運送事業者に対しては、安全性を向上する装置を備える車の適切な運転方法について指導するように規則改正した。車の進歩に合わせ、講習も進化させる。新たな課題を明らかにし、そこを補い安全運転に繋げる。一方で、ルールを守る、譲り合い・思いやり、変わらずに大切なことを説き続ける。いずれ高度道路交通システムが整い、すべての車がレベル5になれば、たぶん、お払い箱だな。その前に講習も人工知能が取って代わるかもしれない。とりあえず定年までは仕事ありそうだ。今日のお土産は、そうだ!「夏のボーナス」ありがとう。

以上

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