コンサルタントコラム

バングラデシュの工場における安全管理

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
海外リスクマネジメント
役職名
インターリスクアジアタイランド マネジャー
執筆者名
服部 誠 Makoto Hattori

2016.3.28

バンングラデシュといえば洪水や貧困というイメージを持つ人が多いかもしれない。3大河川(パドマ川、ジャムナ川、メグナ川)が形成する広大なデルタ地帯にあり、肥沃で農産物に恵まれた土地である一方、頻繁に洪水が発生し、浸水エリアは国土の70%近くに達することもある。またバンングラデシュの独立運動のきっかけとなったとも言われる1970年のサイクロンでは死者数が約50万人に達するなど、自然災害リスクが高い国であることは間違いない。

こうした厳しい自然環境にありつつも近年は、安定した経済成長と豊富かつ低廉な労働力から、外国企業の投資先として注目を集めている。特にアパレル製品輸出国としては中国につぐ世界第2位にまで成長し、欧米などの多くの有名アパレルブランドの生産拠点となっている。

一方で、こうしたアパレル製品輸出国としての成長に伴い、新たなリスクが注目されることとなった。工場の安全管理に関するリスクである。

きっかけは立て続けに発生したアパレル系工場での火災と建物崩壊であった。2012年11月に発生した9階建てのアパレル工場の火災では112名が死亡した。原因は電気の短絡で、専用避難口が設置されていなかったため従業員の多くは避難できなかった。続く2013年4月には8階建の商業建物で、縫製工場が入居していた上層階が崩壊し1134人が死亡した。上層階に設置された非常用発電機と数千台ものミシンの振動が建物に影響を与えたとされる。上層階は違法に増築されていた。同国では設計基準は存在しているが、これらの事例にあるような違法建築物が多い。なお建物崩壊事故では事故前日に外壁等にひび割れが発生していたためビルの使用を中止するべきとの警告が発せられていたが、入居企業オーナーはこれを無視し、従業員に対して職場に戻るように指示していたことが後に判明している。こうした危険な労働環境の企業に委託していたのが欧米の大手アパレル企業や小売企業であったことから世間に注目されることとなり、これら委託企業への批判が高まった。

これらの事故をうけて、アパレル系工場の安全確保を促進する国際的な合意が形成され、大手欧米企業を中心に同合意に基づくローカル工場の安全監査(防火・建物構造など)ならびに従業員の防災教育が実施されている。要求水準を満たさない工場に対しては取引停止などのペナルティが科せられるため半ば強制的に安全管理体制が向上しつつある。

また上記影響もあってか日系企業においても欧米の顧客を持つ工場は高い安全管理レベルを求められる傾向にあり、顧客の要求に従い火災報知器、消火栓や防火壁・防火戸を設置した企業もある。一方でこれとは別にEPZ(輸出加工区)に入居する工場は、EPZ独自の安全基準の遵守が要求される。これらに先立ち国の設計基準もあるので、工場は2重3重のルールに縛られ、当初予定していなかったコスト増に悩む企業も多い。

しかしながら従業員の安全を確保するのは経営者としての責務であると言えるし、長期的にはこうした取組みがバンングラデシュならびに進出企業の健全な成長には不可欠という考え方も必要ではないだろうか。上記のような安全取組が奏功してか、現地で往訪した日系工場の安全管理レベルは日本には及ばない点があるものの、東南アジアと比べて遜色ないレベルと感じた。

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