コンサルタントコラム

食品関連企業に求められるフードディフェンス対策

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
食品衛生/食品微生物/食品安全マネジメント/フードディフェンス/食品工学に基づく製品評価/食品リスク全般
役職名
事業リスクマネジメント部 CSR・法務グループ 上席テクニカルアドバイザー
執筆者名
笹川 秋彦 Akihiko Sasagawa

2015.1.20

2013年12月末に発生した食品への意図的な異物混入事件を受け、農林水産省は「食品への意図的な毒物等の混入の未然防止等に関する検討会」を設置し、その報告書を本年6月に公表した。本報告書では、食品防御(フードディフェンス)対策として、以下の4つに焦点を当てている。

  1. 従業員等による意図的な異物混入を想定したフードディフェンスの必要性の認識
  2. コミュニケーション等を通じた意図的な混入を生じさせない職場風土作り
  3. 脆弱性の評価等に基づいた適切な対策による意図的な混入を実行し難い環境作り
  4. 万が一、混入が発生した場合に備えた危機管理体制の整備

ここでは、本報告書を踏まえ、食品関連企業に求められるフードディフェンス対策として、特に上記③および④について、取組の一例を筆者のコンサルティング経験も交えて紹介したい。

フードディフェンス対策を検討するためには、まず現状を評価して、弱みを知る必要がある。これが「脆弱性評価」と言われるものだ。意図的な混入を行う悪意ある第三者・取引先・従業員等を想定し、敷地・建物、施設等に誰がどこまで侵入できるか、脅威となる対象者をどこで食い止めるべきかを整理する。その上で、各脅威の対象者による施設への侵入や製造ラインへの攻撃の容易性について、施設図や工程図等を基に、リスクシナリオを想定し、脆弱性を評価する。

その際、社内の関係者だけでは、性善説により「自社の従業員がそんなことをするはずがない」と考えたり、限られた知識や思い込みにより「そんな異物を持込むことはできない」と検討の範囲を狭めてしまいがちであり、「想定外」として脆弱箇所を見落とす可能性が否定できない。しっかりとワーストシナリオを描き、「こんなことをするかもしれない」、「できるかもしれない」という目線で評価するために、外部の専門家を起用するケースも多い。

この評価については、定量的に評価を行い、結果を数値化して、例えば工場内の様々な脆弱箇所を数値により比較し、脆弱性の高い箇所から優先的に対策を講じることが望ましい。

一方、対策を講じても異物混入のリスクをゼロにすることは難しい。そういった事態に備えて危機管理体制を整備しておくことも大切だ。フードディフェンス対策をすり抜けた場合の想定シナリオに基づき、緊急時対応計画(時系列・対象別の実施事項リスト等)を作成し、各To Doが適時適切に行われるかをまず机上で検証する。さらに、シナリオを事前に開示せず、実際の危機発生時と同様に五月雨式に様々な情報を提供していく形式により訓練を運営することで、緊急時における対応力の検証や緊急時対応計画の実効性確保のための課題を把握することができる。

以上、フードディフェンス対策の取組例を紹介してきたが、このリスクは食品関連企業にとって、もはや想定外とは言えないものだ。FSSC22000等の食品安全マネジメントシステムの認証取得工場等であっても、一度脆弱性評価を行い、対策の見直しを実施することを強くお勧めしたい。

以上

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