コンサルタントコラム

『図上訓練』で災害に備える

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
事業継続管理(BCM)
役職名
大阪支店 災害・事業RMグループ 主任コンサルタント
執筆者名
大和田 勝 Masaru Owada

2014.11.5

地震の対策としての『訓練』というと、どのようなものを想像するだろうか。多くの方は「地震が発生しました。指示に従って安全に避難してください。」といった放送に従って一斉に動く避難訓練などを想像することが多いかもしれない。このように体を動かしてトレーニングする訓練は一般の従業員を対象に実施されることが多く、広く周知する方法として有効である。しかし、一般の従業員と、重大な意思決定や指示を行う経営陣や対策本部メンバーとでは、地震発生時における役割が大きく異なる。

経営陣や対策本部メンバーには、どのような『訓練』が望ましいだろうか。ここでは、地震を想定した『訓練』を『実働訓練』と『図上訓練』に分け、特に経営陣や対策本部メンバーを対象に実施される『図上訓練』を中心に紹介する。

『実動訓練』は前述の避難訓練のように、避難ルートや避難誘導の方法を予め定め、その内容を訓練参加者に開示しておき、定められたシナリオに沿って体を動かして覚えるものである。一方、『図上訓練』は、シナリオを事前に開示せずに適切な情報収集・判断・指示等の頭のトレーニングを行う訓練である。

例えば、震度6強の強い揺れに見舞われて公共交通機関が停止し、多くの従業員が帰宅困難になっている中で「停電して日も暮れかけている中で『帰りたい』と言っている従業員を返してよいか?」、「負傷した近隣住民から助けを求められたら会社として受け入れることができるか、その場合にどのような支援を提供するか?」といった課題には、対策本部として(会社として)の意思決定が求められる局面になる。こういった課題に対する意思決定、あるいは組織的な情報伝達をトレーニングするのが『図上訓練』である。

この『図上訓練』では、シナリオ上の時間や状況を自由に設定することができるため、限られた訓練時間の中で様々な局面(例えば、地震発生直後、発生翌日…など)を体感することができる。そのため、被害が広範囲、長時間に及ぶ地震などの自然災害においては、局面を自由に設定できる『図上訓練』が有効である。

では、この『図上訓練』の効果はどのようなものか。『図上訓練』は前述のとおり経営陣や対策本部メンバーを対象に実施することが多いが、そのうち顕著に効果が見られるのは対策本部のメンバーである。

弊社はこの『図上訓練』の支援を複数手掛けているが、訓練が始まる前に参加者に声を掛けると、「呼ばれたので止む無く参加しました。」と言わんばかりの表情をされることが少なくない。しかし、訓練が始まると表情が段々と変わり、「総務部の○○さんが頭を打って負傷し、救護所に搬送されました。」といった状況を付与すると表情が一変する。訓練が終了してから声を掛けると「こういった訓練は私の部下にも受けさせたい。」、「訓練の対象者や局面を変えて、繰り返し実施すべきだ。」といった声を頂戴することが多い。このように、地震が発生した場合の被害や対応などを本気で考えることで、対策本部メンバーをはじめとする訓練参加者の取組意識を向上させるのが『図上訓練』の効果の一つである。

ここでは、『図上訓練』の概要とその効果を説明してきた。このような取組を通じ地震対策の実効性を高める取組に着手される企業が増えることを切に願う。

以上

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