コンサルタントコラム

企業会計とリスク評価

所属
コンサルティング第一部 環境グループ
役職名
主任コンサルタント
執筆者名
緒方 禎浩 Yoshihiro Ogata

2013年10月7日

グローバル化する投資活動や企業活動を背景に会計基準が国際統一に向かっている。今回はリスクコンサルティングに関する業務経験等に基づき、企業の会計基準対応とリスク評価について、有形資産と無形資産に分けて概説する。

企業が保有する代表的な有形資産としては土地、及び建物が挙げられる。そしてこれらの資産価値に影響を与えるリスクとして、有害化学物質による土壌汚染や健康影響が懸念される建築材のアスベスト等があり、環境リスクとしても取り上げられることが多い。
 これらの環境リスクが会計基準に影響するということで議論の契機となったことがある。2008年3月に財団法人財務会計基準機構の企業会計基準委員会から公表された「資産除去債務に関する会計基準」である。当該会計基準は国際統一化の流れの中で導入されたもので、「土壌汚染やアスベスト等の処理義務が生じた場合には、将来の対策費用を財務諸表に計上する」と認識されたため、企業の経理部門だけでなく環境部門からも大きな関心を集めた。本会計基準への企業側の対応について蓋を開けてみると、環境リスクが認識できている企業では適正な対策費用が財務諸表に反映され、環境リスクが不透明な企業では費用を合理的に見積もることができず財務諸表には反映されなかったようである。

一方、無形資産としては企業ブランド、人的資本、及び知的財産権等が挙げられる。これらは企業競争力の源泉とも言えるものであるが、現状において資産計上されているのは、のれんやソフトウェアといった一部のものに限られている。今後、国際財務報告基準(IFRS)が適用された場合、一定条件下において資産計上しなければならなくなる(無形資産に関しては国際会計基準(IAS)第38号に会計上のルールが記載されている)。
 企業のグローバル化が進む中、無形資産の取扱いに関していくつかの課題が指摘されている。
 ここでM&Aを実施する企業を例にとる。ある企業が自社技術を強化するため、当該技術分野で先行する他社事業を知的財産権とともに買収したとする。この場合、買収価額のうちいくらを知的財産権に配分するかという課題があり、合理的な対応が難しいのが現状である。これは無形資産、特に特許等の知的財産権に関する価値評価が容易ではないからである。価値評価の手法としては様々なものがあるが、その価値は所有する企業の能力や市場の反応に大きく依存するため、どの評価手法が最適であるか結論は出てこない。
 このように無形資産は、土壌汚染のように穴を掘って採取したサンプルを手に取り実態を把握することができないため、有形資産に比べて、実態とかけ離れた価値評価をしてしまうリスクが大きい。取得した特許が無効審判によって無効になるリスク、特許の価値よりも技術者個人が持つノウハウの価値の方が大きいといった技術評価を誤るリスク等、価値評価にあたっては様々なリスクを考慮しなければならない。

このように会計基準の国際統一化が進む中、企業の資産価値を検討する上でリスク評価の重要性、特に企業価値に大きく影響し得る無形資産に関するリスク評価の重要性が高まってくると考えられる。
 今後は、このように増加が予想される無形資産のリスク評価ニーズに応えていきたい。

以上

(2013年10月3日 三友新聞掲載記事を転載)

緒方 禎浩 Yoshihiro Ogata
氏名
緒方 禎浩 Yoshihiro Ogata
役職
コンサルティング第一部 環境グループ 主任コンサルタント
専門領域
環境リスク、知財リスク

コラムカテゴリー