コンサルタントコラム

結果事象BCPで複合災害に備える

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
BCM(事業継続マネジメント)
役職名
コンサルティング第二部 BCM第一グループ コンサルタント
執筆者名
笹平 康太郎 Koutaro Sasahira

2011.10.12

東日本大震災の発生から9月で半年が経過した。今回の震災は「想定外」と言われることが多いが、その規模もさることながら「複合災害」だったということにもその一因がある。地震・津波により広域に被害が及び、それに伴い、火災や爆発、原発事故などの二次災害が発生し、ガソリン・電力の不足や世界規模で原材料の供給途絶という事態にまで発展した。現在、事業継続計画(BCP)の策定・見直しを行っている企業が急増しているが、それら企業の中には、今後も発生しうる複合災害にどのように対応していけばよいのか悩んでいる企業も多い。そのヒントとなるのが「結果事象BCP」である。

結果事象BCPとは、経営資源(リソース)に注目したBCPである。これまで多くの企業が策定してきたBCPは、地震やインフルといったリスクイベントに注目したものが一般的であった。地震のBCPであれば、最も深刻な被害が発生すると考えられる地震を想定して被害想定シナリオを描き、そのシナリオでの災害が発生した際に実施すべきことを時系列に整理し、事業を復旧・再開させるための手順・対応を検討する。この場合、想定したシナリオである地震ではないと、その場での応用が難しく、うまく活用できないケースがありうる。一方、結果事象BCPは、拠点(工場、オフィス)が使えなくなった場合、社員(ヒト)が確保できなくなった場合など、重要業務の実施に必要なリソースに注目し、何のリスクによってかにかかわらず、その事業リソースが使用できなかった場合にどうするかを考えるアプローチである。この考え方をとることによって、想定シナリオ通りの地震でなくても、他のリスクイベントが発生した場合にも活用することができる。

ただし、一般的に、あるイベントが発生(リスクが顕在化)した場合、日常的な通常業務とは異なる業務が新たに発生する。地震の場合では、社員の安否確認や救援救護・二次災害防止など、主に「初動対応」と呼ばれる部分がこれに該当する。このような業務はイベントによって異なるため、イベント別で整理する必要がある。たとえば、突発的に発生する地震と段階的に蔓延するインフルエンザでは初動対応が異なるのは明らかである。

つまり、これまでのBCPはイベントに注目し、それが発生した時から時系列に整理したが、結果事象BCPでは、イベントが発生した直後の通常業務とは異なる業務については、イベント別で整理し、通常業務に関しては、リソース別で整理したものである。こうすることで、生じるリスクに関係なく、対処することが可能となる。

今回の東日本大震災を受け、地震発生により他のリスクが誘発され、企業への影響は地震による直接的な被害だけでは収まらないことが明らかになった。今後、企業は地震リスクだけでなく、多様なリスク、もしくは複数のリスクが同時に発生した場合にも対応できるよう態勢を構築することが求められる。そのためには、リスクイベントに注目して構築してきたBCPを事業リソースに注目したBCPに転換することが重要である。すなわち、結果事象BCPの導入がポスト3.11.のリスクに強い企業を形成するキーワードになるのである。

以上

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