コンサルタントコラム

高層ビルの長周期地震動対策

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
自然災害リスクマネジメント
役職名
コンサルティング第三部 災害リスクグループ 主任コンサルタント
執筆者名
佐藤 公紀 Masaki Sato

2011.3.1

死者・行方不明者10万人の甚大な被害をもたらした1923年関東大震災を始め、1995年阪神・淡路大震災、2004年新潟県中越地震、2008年岩手・宮城内陸地震などでは多くの人命が奪われ、企業も多大なダメージを被った。

これら大きな被害を引き起こした地震は、被災地域の直下、もしくは近海が震源であり、震源に近い地域で大きな被害が発生したものであるが、近年の研究により、遠く離れた場所で起こった地震でも、高層ビルなどの特殊な構造の建物では大きな被害が発生する可能性があることが指摘されている。それが長周期地震動である。

我々が感じる地震動には、短い周期の波によるガタガタとした揺れと、長い周期の波によるゆっくりとした揺れが混ざっているが、長周期地震動はその名の通り長い周期の成分を多く含む地震動のことである。

地震動の周期と、家屋、ビルなどの構造物の固有周期が合致すると、共振と呼ばれる現象によって構造物が大きく揺れ、被害が大きくなる。固有周期とは構造物の揺れやすい周期のことで、木造の家屋や低層ビルは固有周期が短く、中層ビル、高層ビルと建物が高くなるにつれて固有周期は長くなる傾向にある。長周期地震動は長い周期の成分を多く含むので、固有周期の長い高層ビルに大きな影響を与える。

長周期地震動には、(1)規模の大きい地震によって発生する、(2)震源から遠く離れた場所まで伝わる、(3)揺れが長く続くという3つの特徴がある。2004年新潟県中越地震(M6.8)では、震源から約200km離れた東京の超高層ビルでエレベーターケーブルが破断する被害が起きた。また、政府の機関である地震調査研究推進本部が2009年9月に公表した「長周期地震動予測地図2009年試作版」では、場所によってはゆっくりとした揺れが5分程度も続くと予想されている。

このような特徴を持つ長周期地震動に対し、国土交通省は平成22年12月21日に「超高層建築物等における長周期地震動への対策試案」に関する意見募集を公示した。この中で国土交通省は、新築の超高層建築物(高さ60m超)および免震建築物に対して長周期地震動を考慮した耐震強度を義務付ける方針を示した。既存の超高層建築物および免震建築物に対しても長周期地震動に対する耐震強度を検証し、必要な補強を行うように要請している。

また、同試案では、建物の耐震強度だけではなく、什器・備品等の転倒防止対策に対する設計上の措置についても説明を求めることとしている。長周期地震動では40階建て程度以上のビルの最上階で2m以上の揺れ幅が想定され、固定されていない棚が転倒したり、キャスター付きの事務機が大きく移動したりすることによる人的な被害が懸念されるため、建物内の什器・備品等の地震対策を促したものである。

長周期地震動の危険性については、昨今、報道等で特集が組まれる機会も増えているが、未だ十分に認知されているとは言えない状況である。建物の耐震補強や転倒防止対策が施され、大きな被害が起こらなくても、高層ビルの上層階にいる人は揺れ自体に強い恐怖を感じ、避難口に殺到する等のパニックが起こる可能性がある。長周期地震動の存在を知り、その特徴を把握することで冷静な行動を取る心の余裕が生まれるものと考えられる。今回国土交通省が示した対策が、適切なハード対策の推進のみならず、さらなる認知度の向上につながることを期待する。

以上

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