コンサルタントコラム

事業継続計画(BCP)とトイレ対策

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
BCM、情報セキュリティ
役職名
コンサルティング第二部 BCMチーム コンサルタント
執筆者名
黒住 展尭 Nobutaka Kurozumi

2009.1.20

地震等の広域災害に対するBCPを検討する際にはトイレ対策についても考える必要がある。しかし「汚い」、「臭い」といったマイナスなイメージのために、深い議論に基づいた対策が行われているケースは少ないと考えられる。そこで本稿では、企業のBCPにおけるトイレ対策の重要性について考えてみたい。

断水・停電等で、トイレが使えなくなった場合の影響はどの程度であろうか。ここでは都心に立地する平均的なビルから1日あたりに排出されるし尿の量を推定する。ある調査によれば、1人1日当たりに排泄されるし尿の量は、平均で1.37リットルである。仮に1フロアに200人が在室している20階建てのビルがあったとすると、当該ビルから1日あたりに排出されるし尿の総量は1.37×200×20=5,480リットルである。5,480リットルとはバスタブで換算しておよそ27杯分である。BCPを考える上でトイレ対策を無視できないことを理解して頂けるであろう。

トイレ対策を考える上で、行政の力を借りることが考えられるが、これには限界があり、結局のところ各企業にて自主的な対策を講じる必要がある。千代田区によれば、区内在勤者のうち帰宅困難者となる人数は57万人と予想されている。一方、千代田区で備蓄しているトイレは平成15年時点で仮設トイレ、応急トイレを合わせて292基となっている。これはトイレ1基当たりで約2,000人に対応する計算になり、全ての帰宅困難者に対応するのは不可能である。

「公助」では限界があるトイレ対策について、企業は「自助」で対策を講じる必要がある。ポイントは以下のとおりである。

  • 必要な仮設トイレのタイプ・数を正確に把握し、準備すること
  • 使用後の汚物を一時保管する場所を選定しておくこと

まずは、帰宅困難者数を把握して、準備すべき仮設トイレのタイプ・数を検討する必要がある。仮設トイレにはボックスタイプ(工事現場等に設置されているタイプ)や簡易タイプ(便器にビニールをはめ込むタイプ)等がある。これらの中から、保管スペース、し尿の貯留能力、コスト等を勘案して、各企業の実情に即した対応を講じる必要がある。保管スペースやコストをかける余裕があるのであれば、使用する際に抵抗感の少ないタイプ(ボックスタイプなど)を多く準備すればよいし、スペースがなくコストをかけられないのであれば、簡易タイプを用意し、訓練などで抵抗感を減らすといった対応が考えられる。

次に、使用済みの汚物を保管しておく場所を検討する必要がある。簡易タイプの場合、使用後のパックをごみ収集が回復するまで一時的に保管しておかなければならない。どの程度の帰宅困難者がどの程度の期間、オフィスに滞留することになるか等を考慮して、起こりうる最大量に対応したスペースを定めておくことが望ましい。最近では薬剤によって汚物を熱分解するタイプのものがあり、これにより衛生的で、臭いを抑えた状態で保管することが可能である。こういった方法を合わせて検討し、実効性の高い対策をあらかじめ講じておくことが重要である。

以上、トイレ対策の必要性について述べてきた。「くさいものにふた」ではないが、イメージが先行して対策が進みにくい部分であるトイレ対策ではあるものの、必要性の高さは食料の備蓄に勝るとも劣らない事項である。本稿が各企業におけるトイレ対策推進の一助となれば幸いである。

以上

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