コンサルタントコラム

アジアの自然災害について~ミャンマーサイクロンをうけて

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
海外リスクマネジメント
役職名
インターリスク・アジア ディレクター
執筆者名
秦 孝陵 Qin Xiaoling

2008.11.6

1. ミャンマーのサイクロンについて

今年、5月2日から3日にかけ、ミャマーの南部エーヤワディー川デルタ地帯を中心に、大型サイクロン「ナルギス」が襲いました。
5月24日付けのミャンマー国営テレビ報道によると、死者が8万4537人、行方不明者が5万3836人に達する被害が出ました。
被害をこれだけ大きくした理由はいくつか考えられます。

  1. 通常ベンガル湾で発生するサイクロンは、北東貿易風の影響で東進することはなく、多くがバングラデシュ、カルカッタ付近、インド半島東岸に上陸しますが、ナルギスのように東に進んでミャンマーに上陸する事は稀でした。
  2. 海と住居の間の緩衝地帯として機能していたマングローブ林(熱帯や亜熱帯地域の河口域の湿地帯に植生する森林のこと)の破壊が多くの死者をもたらしました。
  3. 防災インフラ(堤防、シェルター、警報システムなど)が未整備でした。
  4. 政府関係機関から危険情勢が迅速かつ適切に住民に伝達されていませんでした。
  5. 貧困層の多くが住む簡易住宅が3メートル以上の高波に耐えきれませんでした。
  6. 様々な理由によって救援活動が遅れました。

2. アジアの自然災害

以下の表はルーベンカトリック大学・ベルギーが1975年から2006年までの自然災害をまとめたデータですが、アジアは他の地域と比較しても、災害の数・頻度、被害額、被災者数が圧倒的に多い地域であることが容易にわかります。

1975-2006 アジア ヨーロッパ アフリカ アメリカ オセアニア
地域別災害数の割合 37.49% 13.4% 20.03% 22.71% 6.37%
地域別被害額の割合 44.44% 16.45% 1.49% 35.60% 2.02%
地域別被災者数の割合 88.87% 0.56% 7.31% 2.90% 0.36%

出典:CERD-EMDAT(ルーベンカトリック大学・ベルギー)、2006を基にインターリスク・アジアが作成

以下にその背景と原因について概説してみます。

  1. アジアは、自然災害の「宝庫」とも言われています。太平洋、北米、フィリピン、ユーラシア、インド・オーストラリアという5プレートが複雑に噛み合っており、ヒマラヤ地震帯など世界有数な地震帯を作り出しています。地震帯と重なるようにして火山帯が存在するため、日本、フィリピン、インドネシアなどの国は火山活動が活発な地域です。さらに熱帯では、台風やサイクロンが豪雨をもたらします。 アジア防災センターの統計によると、今年9月から10月はじめまでわずか1ヶ月強の間だけでも20件弱の災害が発生しています。
被災国・地域 災害種類 発生時期
中国 地震 10/6/2008
カザフスタン 地震 10/5/2008
ベトナム 台風 9/29/2008
タイ 豪雨 9/28/2008
ベトナム 台風 9/28/2008
中国 台風 9/25/2008
インド 洪水 9/22/2008
中国 豪雨 9/21/2008
フィリピン 台風 9/19/2008
ネパール 洪水 9/19/2008
バングラデシュ 暴風 9/17/2008
中国 台風 9/15/2008
台湾 台風 9/12/2008
タイ 洪水 9/8/2008
中国 地すべり 9/8/2008
フィリピン 洪水 9/7/2008

出典:アジア防災センターの情報を基にインターリスク・アジアが作成

  1. アジアの人口密度が他の地域と比較して高いことも一因として挙げられます。経済の発展に伴い、人口が増加し続け、かつ都市に急速に集中する傾向がありますので、下水道、避難場所など社会・防災インフラの整備が追いつかないことによって、災害の直撃による損失だけではなく、都市機能がマヒ状態に陥ることによる二次災害の損失も無視できません。
  2. 過度な開発による自然破壊が被害を深刻にさせたことも特筆すべきでしょう。今回ミャンマーのサイクロンで被害がこれだけ拡大したのも、保全区域周囲が農耕地に転用されたため、本来高潮などから守る重要な役割を果たすマングローブが急速に減少したことが影響した結果ではないかという専門家の意見が紹介されています。従って、防災と自然保護が表裏の関係にあると言えるでしょう。

3.最後に

かつて人間は、自然に対して敬意をもって接していました。しかし、現代においては、文明の高度化によってその敬意が薄れつつあります。この災害多発地域に生きる我々は、災害から得られた教訓を糧として、自然との共存を考えて生きていくべきではないでしょうか。

以上

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