コンサルタントコラム

メッシュ化の進展によるBCPの必要性の高まり

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
BCM/ERM/内部統制/米国会計
役職名
コンサルティング第二部 BCMチーム 上席コンサルタント
執筆者名
藤田 亮 Ryo Fujita

2008.4.1

近年、事業継続計画(BCP)が注目を浴びている。BCPは、地震・大火災・テロなどのリスクが顕在化した際に、企業が重要な業務を早期に復旧させるための計画や事前の準備を指す。企業は、BCPに基づき、早期に事業を復旧させることで、財務的なダメージや信用の低下を小さくすることが出来る。 これをサプライチェーンの観点からみた場合、災害時であっても「サプライチェーン」が寸断されることなく、供給責任を全うするための計画や取組がBCPであるといえる。

2004年における我が国製造業のデータでは、上場製造企業数は773社であるのに対し、上場製造企業に直接納入をしている中小製造企業は40880社である。40880社という数字は、我が国中小製造企業数の3割弱に該当する。また、上場企業への直接納入は行っていないが、上場企業を頂点とするサプライチェーンを構成しているものまで合わせると、中小製造企業全体の6割弱にも上る。この数字から、上場企業のサプライチェーンにとって、中小企業が重要な役割を果たしていることが推察できる。 一方、目を転じて、サプライチェーンの内部を見ると、近年、各企業間の取引においていわゆるメッシュ化が進行している。以前は、上場企業を頂点として各企業が垂直的な少数依存の取引関係で連なっていたものが、近年では仕入先・販売先を多く持つ他面的な取引関係を結ぶ傾向(メッシュ化)が強まっているのである。これは、あるサプライチェーン上の中小企業の事業が停止した場合には、以前よりも多数の企業が大なり小なり影響を受ける傾向にあることを示している。また、メッシュ化の進展は、特定の大企業と中小企業における日常的なコミュニケーションや協力関係の低下をもたらした。大企業から見た場合、サプライチェーンを構成する中小企業の防災対策や被災時の復旧計画などについて、以前よりもブラックボックス化していると考えられる。

上述のように、中小企業のサプライチェーンにおける重要性の高まりとメッシュ化の進展により、中小企業がBCPを策定し、その内容を明らかにする必要性が高まっていたといえよう。これを支援するため、政府、自治体、商工会議所、協同組合などの様々なレベルで活動が行われている。
中小企業庁は、平成18年2月に「中小企業BCP策定運用指針」を公開した。この指針には、基本コース、中級コース、上級コースがあり、必要な情報を中小企業庁ホームページ上で入力していくことで、中小企業の特性や実情を一定反映させたBCPを作成することが出来る。また、静岡県では「事業継続計画モデルプラン」を作成し、県下の中小企業の実情にあったBCP作成を支援したり、徳島県でも独自のBCPガイドラインを作成するなどして普及に努めている。また、商工会議所や協同組合が中小企業向けのBCPパンフレットの作成やセミナー開催などを継続的に実施している例も見られる。
しかし、一般に、中小企業は大企業と比較して、BCP作成や防災活動にまわせる資金力に乏しく、専任のBCP担当者がいない企業も多い。中小企業がなるべく労力をかけずにBCPを作成できるような環境の整備やノウハウの提供等の支援が関係機関に求められている。同時に、サプライチェーンの最上位に位置する上場企業も、関連する中小企業と共同してBCPに関する訓練を実施したり、サプライチェーンを構成する各社のBCPが整合するよう、具体的に策定過程を支援するなどの積極的な協力が求められているのではないだろうか。

以上

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