コンサルタントコラム

新工場設計のリスクマネジメント

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
企業リスク・災害リスクマネジメント・プログラムの設計と運営
役職名
災害リスク部 上席コンサルタント
執筆者名
加藤 久雄 Hisao Kato

2008.4.1

このところ、お客さま企業の新工場建設前の段階において、防災対策のレベルアップに関わる相談が数件あった。
当該企業の戦略的役割を担った大規模工場であり、「無災害の工場にしたい。万一事故が起こっても、被害を最小限にとどめたい」という要望を受けて、コンサルティングを実施した。
コンサルティグでは、製造・倉庫エリアにスプリンクラー設備を設置し、火災危険の高い製造工程とその他のエリアとの境を頑強な防火壁で区分し、延焼しにくい工場とすることを提案し、採用いただいた。
工場は先日竣工の運びとなり、建設に携わったプロジェクトリーダーからは、人命や建物・機械などの財物の防御のみならず、延焼拡大によって被るおそれのある事業中断の回避も大きな観点だった、とのお話を伺うことができた。
このような相談は、筆者が損害保険会社に勤務していた十数年前からあった。工場の火災保険料(掛け金)は、建物構造、作業内容、消火設備等により決定され、火災危険に強い建物・設備であれば、保険料は安くなる。一般的に保険料を節減するための方策として、次のようなことが挙げられる。

  • 建物構造の強化・・・例えば、建物の柱を裸鉄骨から鉄骨耐火被覆にする。
  • 消火設備の増強・・・例えば、スプリンクラー等の消火設備を新規設置する。
  • 防火区画の設置・・・建物内の壁を防火壁に変更して延焼しにくい構造とする。

火災保険料は毎年支払うものであり、リスクと保険料コストの低減をあわせて考えれば、企業にとって得るところは大きいかと思われるが、これらの方策は、多くの場合、火災保険料ダウンのメリットより大きな建設費のアップを伴い、コストバランスの観点では大きなインセンティブとなりえなかった。加えて、このような防災対策の高度化は、法令等で要求される基準を超えた設計となることが多く、建設コストを極力抑えてきた企業では、前例が乏しいため、実現することは極めて稀であった。
冒頭に紹介した企業の場合、多額の投資を行うことを決断するにあたっては、社内外でのご苦労があったかと想像され、ご関係者の熱意とご努力に敬服する次第であるが、背景には、従業員の安全、周辺の環境への配慮、取引先との円滑なビジネスの継続などといった、多数のステークホルダーを見据えたCSRの高まりも後押しとなったのではないか。
最近のご相談には、より積極的なリスクマネジメント対応を念頭に置いたお客さま側の意識の高度化を感じることが多くなった。このような意識の変化は、今後もさらに進展していくと期待するものである。

以上

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