コンサルタントコラム

最近の環境・CSR報告書を読んで想うこと

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
環境・CSRマネジメントシステム、環境・CSR報告書、SRI(社会的責任投資)
役職名
コンサルティング第一部 製品安全・環境チームリーダー
執筆者名
猪刈 正利 Masatoshi Ikari

2008.4.1

環境省の調査によれば、環境・CSR報告書を発行する企業や大学・自治体の数は毎年増加傾向にあり、2005年度は993社、そして今年2007年度は1,000社以上の企業等の組織が環境・CSR報告書を発行する見込みである。なお環境省の定義によれば、「環境報告書」には「CSR報告書」や「サステナビリティ・レポート(持続可能性報告書)」等も含むと定義されているが、本稿ではこれらを総称して「環境・CSR報告書」と呼ぶことにする。

前述の通り報告書の名称は多岐に亘るが、従来は「環境報告書」として主として企業の環境取組みのみを開示するのが一般的であった。しかし昨今、企業の社会的責任(CSR)に関する関心の高まりを受けて、CSR元年と言われている2003年を境に「環境報告書」を「CSR報告書」や「サステナビリティ・レポート(持続可能性報告書)」に改称して、開示内容も環境分野に限定されず、CSR一般にまで拡大して情報開示を行う傾向が顕著になっている。

筆者は仕事柄、様々な企業の環境・CSR報告書を読む機会が多く、また2002年から環境省他が主催する「環境コミュニケーション大賞」(環境・CSR報告書の表彰制度)の報告書部門ワーキンググループ委員を務めている。こういった経験から、環境・CSR報告書を読む際のポイント、および筆者として最近の環境・CSR報告書を読んで想うことを以下に列挙する。

1.経営者の緒言の内容

環境省の「環境報告書ガイドライン」では、「環境問題の現状、事業活動における環境配慮の取組の必要性及び持続可能な社会のあり方についての認識」について記載することが望ましいとされている。しかし、いくつかの報告書の経営者の緒言には、例えば「今後も当社が持続的に発展し」等、当該企業の持続可能性(サステナビリティ)については言及しているものの、社会や地球(環境)の持続可能性については言及していないケースも散見される。言うまでもなく、社会や地球(環境)の持続可能性が担保されなければ、当該企業の持続可能性も有り得ず、報告書では自社がそういった認識を持った上で、取り組みを実施しているということを明確にすることが望ましいだろう。

2.報告書全体の整合性(もしくはPDCA)

環境・CSR報告書を発行して間もない企業(=環境やCSRの取組に着手して間もない企業)の報告書は、単に個別取組を列挙したものが多い。しかし、徐々に環境やCSRの取組が進化(深化)してくると、冒頭の「経営者の緒言」と整合性を持たせながら、自社の取組を、方針や目標(PLAN)、その実践状況(DO)や達成状況(CHECK)、そして次年度以降に向けた見直し(ACT)のPDCAサイクルで記載するようになる。つまり、断片的な個別取組列挙なのか、それとも報告書全体の整合性(もしくはPDCA)が図られているのかを見るだけでも、報告書を発行している各企業の取組のレベルを推察することができよう。

3. ネガティブ情報の開示の有無

環境報告書ガイドラインには、「環境に関する規制の順守状況、違反、罰金、事故、苦情等の状況」を記載することが望ましいとされている。昨今、企業の不祥事が多発しているが、社会からの信頼を得ていくためにも、これらのネガティブ情報をステークホルダーに対して積極的に開示していく姿勢が望まれる。
しかし、実際の報告書では、開示している情報量が不足していたり、ネガティブ情報の有無が明記されていないため読み手が当該企業にそもそも不祥事等が発生したのかどうかわからないなど、その開示方法に課題の残る環境・CSR報告書も少なくない。

最後にある事例を紹介して本稿を終わりたい。
最近読んだ中小規模のある産業廃棄物事業者のCSRレポートには、同社工場に設置されているライブカメラのアドレスが併記されていた。「同社のホームページを通じて24時間365日いつでも当社の実体を見てください」という真摯な姿勢は、同社の透明性を高めることに十分に寄与していると言えるだろう。

以上

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