コンサルタントコラム

工場火災の発生原因

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
リスクエンジニアリング/企業の防災調査/その他災害リスク全般
役職名
災害リスク部 上席コンサルタント
執筆者名
鈴木 哲 Satoru Suzuki

2008.4.1

秋も深まり、乾燥して火災が発生しやすいといわれる季節となった。消防白書における工場火災の発生原因をみると、溶接機や切断機、電気機器から出火することが多いことが示されている。工場内の各設備のメンテナンスには充分注意を払う必要があろう。放火もしくは放火の疑い、たばこといった原因も引き続きあげられており、工場敷地への侵入防止や野積の可燃物の除去、自社従業員だけでなく取引業者の喫煙管理といった対策も継続してもとめられることがわかる。

些細な原因も工程における専門的な危険も、一度火災が発生して甚大な被害が発生すると、ひとつの原因としては同じである。個々に危険性が高いものに目がいきがちだが、周辺環境についても同じレベルで管理する必要がある。

一方、出火原因として「その他34%」、「不明・調査中15%」とあわせて全件数の半数近くを占めている。これは工場火災の原因が極めて多岐にわたり、調査も困難であることを示している。もっとも企業の製造する製品は千差万別であり、各製品に応じた生産設備それぞれが独自の出火リスクを抱えていることから、出火原因もさまざまであることは当然なのかもしれない。

このデータは工場の防火対策を推進するうえで、大きな示唆をあたえてくれる。すなわち、各生産拠点固有の出火リスクを把握することが重要、ということである。消防法規等の遵守はもちろんだが、規制を超えるレベルで独自の防火対策を進めないと、火災事故の半数近くは防止することが難しい、とみることも可能である。

さまざまな工場にうかがうと、各消防法規の遵守にみなさまご尽力されておられるが、一部にはそれだけで足りるとお考えの方もいる。一定レベルの安全は当然保たれるが、上記をふまえ、よりよい生産設備にしていただくため、一歩踏み込んだ任意・独自の対策を進めるようお勧めしている。

言い尽くされたことであるが、火災事故によって失うものはあまりにも大きい。実際に発生した大規模火災事故の現場も多くみてきたが、工場火災について経営者の視点で考えると、尊い人命、貴重な財産、取引先からの信頼はもちろんだが、罹災後、従業員のモチベーションの低下も、なかなか数字にはあらわれないが極めて大きな損害である。伝統ある製造業ほどその傾向は強く、やはり長年をかけて培ってきた愛着のある自らの「現場」を一瞬にして失ったときの喪失感は予想以上に大きい。物的な復旧は半年でできるが、従業員の意識の復活には長期間を要する、と話す経営者にもお会いしたことがある。

われわれの防火対策のご提案がみなさまの貴重な生産現場を守る一助となれば幸甚である。

以上

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