コンサルタントコラム

災害時要援護者を災害から守るには?~新潟県中越地震で被災した乳幼児施設と保護者のニーズ調査から~

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
リスクコミュニケーション・災害心理学/自治体向け防災コンサルティング/企業向け総合RM&BCMコンサルティング/シミュレーショントレーニング企画運営等
役職名
総合リスクマネジメント部 主任研究員
執筆者名
三島 和子 Kazuko Mishima

2008.4.1

1.災害時要援護者問題の背景

昨年は、自然災害が多発し、高齢者など「災害時要援護者」という社会問題が広く認識された年であった。国や自治体などはこぞって災害時要援護者問題への取り組みを強化し始めた。
今年、内閣府や国土交通省等から災害時要援護者支援対策等が出されたが、我が国の災害時要援護者支援は「高齢者支援」に偏っている。
筆者は災害時要援護者問題の中でもっともおろそかにされているのが「乳幼児」であると考える。このままでは、乳幼児が、今後の災害時要援護者支援の枠組みからこぼれ落ちかねないと感じている。
そこで、新潟県中越地震と昨年の新潟・福井豪雨水害を例に、乳幼児を取り巻く災害時のニーズについて緊急にインタビュー調査を行った。その結果、以下の課題が明らかになった。

2.災害時の乳幼児支援の課題

①「災害時要援護者施設」である保育園は安全ではなかった

新潟県中越地震で揺れの大きかった小千谷市では、全壊判定を受けた保育園があった。園舎は倒壊こそしなかったが、保育園は安全ではなかったのである。保育園では保育士1人に対して何人もの園児がいるため、保育園児が地震時に迅速に避難することは難しく、施設が地震で壊れないことが、乳幼児の第一の安全確保策である。

②保育士は「保育士」である前に「公務員」であった

公立の保育士は公務員である。保育士たちは、自分が勤務する保育園が被災していても、災害時の役割に対応して、最寄りの避難所で避難所の開設・運営を行った。このため災害時要援護者たる乳幼児の安全確保や施設復旧が遅れたり、手薄になったりしたのが現実である。これは長岡市や小千谷市だけの問題ではない。わが国における防災分野と福祉分野の連携が残念ながらまだ十分ではなく、見直しの余地がかなりある。

③乳幼児連れは避難所で二次的に被災した

「地震で家が倒壊しても避難所では生活したくない」というのが、保護者すべてに共通する認識であった。普通の人にも避難所生活は不便なものであるが、彼らは普通の人以上にストレスや不便を感じてしまうためであろう。避難所における境遇から受ける悪影響の方が、二次的な被災として大きいようである。

④近所や地域社会の「つながり」に救われた

地域性もあるが長岡市、小千谷市では比較的地域社会のつながりが強かったといえよう。地震発生直後の避難先、車の移動などの安全確保、被害情報の入手等は町内会長らがリーダーシップをとり、乳幼児の保護者らはその声を頼りに行動したという。こうした地域の「つながり」の背景にある近所同士の日常のコミュニケーションが結果的に優れたリスクコミュニケーションになったといえよう。

3.実態に即した災害時要援護者支援策実現に向けて

高齢者、障害者、乳幼児らに対しては、平時は福祉部門が対応しているが、災害は防災部門という業務分担のため、福祉部門には「防災」の観念や知識が乏しい。逆に、防災部門には福祉部門のノウハウがない。災害時要援護者問題がなかなか進展しないのは、防災部門主導で対応しようとしている行政側の限界でもある。この壁を打開するには、災害時要援護者の所在やニーズ、能力をよく理解している福祉部門と、防災に蓄積がある防災部門とが連携して、「災害時の福祉」という分野を確立することである。その際には、災害時要援護者自身と、行政関係者・ボランティア・支援者等を含む福祉・防災関係者双方のリスクコミュニケーションが不可欠である。国や地方自治体などの防災関係者には、ぜひ乳幼児の保護者や保育士等災害時要援護者に係わる関係者のニーズに真摯に耳を傾けてほしい。

以上

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