独占禁止法とコンプライアンス
- 役職名
- 法務・環境部 上席コンサルタント
- 執筆者名
- 伊納 正宏 Masahiro Ino
カルテル・談合行為に対する行政処分の強化などを盛り込んだ改正独占禁止法案が4月20日に国会で成立し、4月27日に公布された。改正法については早ければ2006年1月から施行される見通しとなっている。
独占禁止法は、わが国における自由経済社会を支える基本法であるにもかかわらず、違法事件は後を絶たない。こうした中、同法改正のタイミングと前後して、数多くの橋梁メーカーを巻き込んだ大型の談合事件が表面化し、複数の逮捕者を出す結果となったのは皮肉としか言いようがない。
CSRやコンプライアンスのコンサルティングに携わる立場の筆者が、コンサルを通じて日ごろから痛切に感じていることは、「経営トップがCSRやコンプライアンスに本気で取り組むつもりがあるかどうか」の点である。
例えば今回の独禁法改正を契機に、コンプライアンス再点検を行っている企業は多いと思われるが、総点検の結果、実は自社でも独禁法に抵触する行為があった場合にトップがどう対処するつもりがあるかで、「本気度合い」を見てとることができる。すなわち、重大な独禁法違反があれば、公正取引委員会への報告や、株主・顧客・マスコミなどのステークホルダーに対する情報開示も必要になるはずであり、ここまで腹をくくった上で、総点検を実施することが「真のコンプライアンス経営」であろう。単に社内で是正措置をとって済ませるだけのつもりであれば、コンプライアンスに対する「本気度合い」としては疑問符をつけざるを得ない。
コンプライアンス推進部門としても、こうした判断を経営トップに丸投げするようでは、部門として失格である。経営トップといえども人間であり、間違いは犯す。トップの意向を鵜呑みにするのではなく、経営理念や行動規範に照らし合わせ、耳の痛いことでもあえて「ご注進」することが、コンプライアンス推進部門が果たすべき最も大切な役割である。
企業の独禁法対策は、企業にとってまさにコンプライアンスの試金石そのものであることを、この機会に是非再認識していただければと思う。
以上