コンサルタントコラム

企業のリスク開示と地震リスク

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
火災リスク、自然災害リスク(地震・水災 他)、これらの災害に付随して発生する事業中断リスク。
役職名
災害リスク部 コンサルタント
執筆者名
服部 誠 Makoto Hattori

2008.4.1

有価証券報告書やIR情報のなかで、地震などの自然災害に関するリスク情報の開示を行う企業が出てきている。

リスク情報とは、投資家の判断に重要な影響を与える投資上のリスクを開示したものである。
従来より、株式公開時や公募等の勧誘時に使用される目論見書には「事業の概況等に関する特別記載事項」としてリスク情報を記載する必要があり、詳細なリスク情報が開示されていたが、その後の有価証券報告書ではリスク情報の改訂がされていないことが多く、当初開示されたリスクの状況がその後どのように変化したのかについて投資家が知ることは往々にして難しかった。
こうした状況を改善すべく、平成16年3月期の有価証券報告書からリスク情報は「事業等のリスク」として記載することが義務付けられた。
開示が義務づけられて間もないこともあり、内容については手探りの部分もあるが、地震や台風による企業の被害が注目されていることから、今後、地震等の自然災害リスクについて開示していく企業は増えると思われる。

ところで、「事業等のリスク」の中で、地震リスクについてコメントする必要があるのだろうか。今回の開示の義務化にあたって参照されている米国SECの規程(regulatoin S-K 303)の中では「事業等のリスク」について、「すべての会社に当てはまる一般的なリスクは記載しないこと」とされている。そのため、ほとんどの企業が地震リスクにさらされている日本では、地震リスクについて記載する必要がないように思われる方もいるかもしれない。しかしながら、海外の投資家から見た場合、地震リスクは必ずしも当たり前のリスクではなく、日本の会社に特有のリスク(一般的ではないリスク)と捉えられる可能性もある。

最近盛んになっている不動産の流動化・証券化に際して行われる建物評価の項目として、地震リスクが含まれているのは、我が国で投資を行う際の投資判断の材料として地震リスクが重要な項目であることを表している。

こうしたことから、全ての拠点について地震リスクを開示する必要は必ずしもないかもしれないが、被災の可能性が高い場所に拠点がある場合には、地震リスクについての記載を検討することが望まれる。

企業の開示内容を見てみると、事業場付近で想定される地震(例えば東海地震や宮城県沖地震 など)と、それらが発生した場合の操業への影響可能性についてコメントされているものが多いようである。まずはリスクがあるということを表明しているわけだが、投資家としては、そうしたリスクが具体的にどの程度あり、かつ、そうしたリスクを低減するために何を行っているか、ということも興味のあるところであり、今後そうした情報も求められるであろう。
なお、こうした流れを予想してか、最近では地震などのリスク評価・軽減コンサルティングの成果をIR情報として活用したいという顧客企業がでてきている。

リスクの評価は、さまざまなアプローチがあるが、例えば、不動産の流動化・証券化に際して行われる地震リスクの評価とは主にはPML(Probable Maximum Loss:予想最大損害額)の算出であり、予想される損害額を定量的に推定するのが特徴である。
このようなリスクの定量化手法は、投資家に分かりやすいこと、また組織の意思決定の判断材料としても活用しやすいことなどから、今後は一般企業でも採用されていく可能性がある。
評価の結果、企業活動に大きな影響を及ぼすリスクが洗い出された場合には、軽減策を計画、実施することになる。例えば地震であれば耐震補強の実施、生産拠点の分散(リスクの分散)、地震対策マニュアルの策定や訓練等が考えられる。

以上

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