レポート

2018年度 No.2「有機溶剤がもたらす職業病の予防対策」

2018.6.1

要旨

  • 工業生産において有機溶剤の生産・使用量がますます増加し、中毒被害も続発している。
  • 作業者における有機溶剤の性質や毒性に対する知識不足も被害発生の一因となっている。
  • 中国の国家標準(基準)をもとに、有機溶剤に対する基礎知識と予防対策を紹介する。

1. 生産現場でよく見られる有機溶剤の種類

有機溶剤は1840年代から工業生産に使用されはじめ、これまで170年にわたって使用されている。電子・印刷・家具・自動車部品などの製造業種の生産工程を中心に、主に洗浄、汚れ落し、希釈と化学合成工程等に用いられる。そのため、労働安全衛生において有機溶剤の有害性は一般に見られる問題として広く認識されている。

実際の生産現場で用いられる有機溶剤の多くは、複数の成分から構成されている。例えば、よく見られるペンキ、塗料、希釈剤、洗浄剤、シンナーなどは、少なくとも2種類の有機溶剤で構成される混合物である。有機溶剤を使用する前に、SDS(化学物質安全性データシート)を参照して、個々の化学品の成分を確認し、毒性や安全対策について把握しておくことが重要である。中国の国家標準の「有机溶剂作业场所个人职业病防护用品使用规范GBZ/T195-2007」の付録Bに、よく用いられる有機溶剤について、毒性の高低による区分が掲載されている。(表1参照。毒性が高い順に、第一種、第二種、第三種となる。)

2. 有機溶剤による職業病被害

有機溶剤はすでに工業生産に不可欠な物質といえる。大部分の有機溶剤は、程度は異なるものの一定の毒性を有し、持続的に吸引すると、頭痛、嘔吐、目鼻への刺激、粘膜の炎症などの急性症状を引き起こす。また、大量の有機溶剤を吸引した場合、約40%~80%の有機溶剤が体内に一定期間残留する。有機溶剤の一部は肺の毛細血管を経由して全身へ流れ、中枢神経や肝臓へ大きな健康被害をもたらす恐れがある。また、溶剤の種類により体内に残留する時間は異なり、ほとんど代謝できない有機溶剤も存在する。そのため、有機溶剤が人体にもたらす健康被害は長い時間をかけて蓄積されることになり、慢性職業病に至る。

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