基礎研究

平成30年度のIT関連予算の検討状況~政府がIoT等で目指していること~

役職名
主任研究員
執筆者名
土居 英一

2018年1月15日

昨夏の各省庁の概算要求を経て昨年末には平成30年度予算案がまとめられ、いま第196通常国会で審議されている。 政府は未来投資戦略2017において「IoT等の第4次産業革命のイノベーションをあらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、 様々な社会課題を解決するSociety5.0を実現することが中長期的な成長を実現していく鍵」とした。本稿では、第4次産業革命によってもたらされる世界をイメージしたうえ、IT 関連予算の検討状況を概観する。

第4次産業革命がもたらす世界

まず、第4次産業革命のもたらす世界がどのようなものかイメージしたい。 この新しい世界では、たとえばセンサーやスマホ、カメラ等の技術進化や低価格化、5G等の通信の進化により、現実世界からあらゆる情報がクラウド等に吸い上げられるようになる。 その情報は膨大となりビッグデータになる。同時にAI(人工知能)やコンピュータチップの進化等により、集められたデータをもとに、 今までと比較にならない次元で、現実世界を再現、分析、将来予測等できるようになる。結果として、現実社会をどうするとよりよい状況にできるかわかるようになる。 わかった情報は、人間に伝えるだけでも価値がある。文字や画像以外にも、AR/VR、ウエアラブルデバイス(HMD1、時計等)、環境を操作する多様な機器等を通じ五感のいずれかを刺激する形で伝えられる。 言語の壁などもいずれ消滅する。AIが導いたよりよい状況になるようロボットやドローン、自動運転装置(車、船、飛行機など)、その他の多様な機械を動かす、 あるいは、人間に指示したり生き物を動かしたり、現実世界を物理的にも変えられるようになる。 現実世界にスピーディに対応するため、遠くにあるクラウドを必ずしも活用せず、もっとエッジ(端末などの側)に近いところで、情報を処理し瞬時に対応する技術も進む。

Society5.0

こうなると、これまで解決しきれなかった少子高齢化等の社会課題を解決できるかもしれない。 だからがんばってそういった日本を作ろうというスローガンが「Society5.0」であると考えるとよい。 ちなみにSociety5.0は狩猟、農耕、工業、情報の時代の次に来る5番目の社会を意味する。つまり、ほんの数年間を指す言葉ではない。 ITが、産業や技術だけでなく、社会に存在するすべての組織、すべてのひとをつなぎ、進化が新しい世界を生み出していく。

平成30年度予算のIT関連主要項目

平成30年度予算は、政府の成長戦略「未来投資戦略2017-Society5.0の実現に向けた改革-」を受けた最初の年となる。 予算案からは大半の省庁がSociety5.0に向けITを絡めた予算化を検討していることがわかる。主要な項目は図表のとおりである。

いくつか具体的に紹介したい。まず、経産省の「IoT推進のための新産業モデル創出基盤整備事業」である。 平成29年度より進められている事業で、IoTやビッグデータ等を活用したビジネスを念頭に、規制・ルールの見直しや新規策定、国際標準化など、 IoT等の社会実装を促進する上で事業環境の整備が必要なことを先導研究開発するものである。 主なテーマは「電子タグを用いたサプライチェーンの情報共有システムの構築に関する研究開発」等4つある。 この「電子タグを…」では、コンビニエンスストア事業者5社と共同で「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定し、一定の留保条件の下、2025年までに全ての取扱商品に電子タグを貼付し、 商品の個品管理の実現を宣言している。買い物カゴの商品を客がカゴごとレジ(無人)の機械に入れると一度にタグを読み取り、請求額を表示できる等を目指す。 現在1枚10円前後のタグ価格を圧倒的に下げる等に取り組んでおり、今年度も継続申請された。

サイバーセキュリティ関連

サイバーセキュリティも重要度を増すテーマである。 図表にすべては記載していないが、内閣官房、警察庁、総務省、外務省、経産省、防衛省、金融庁ほか多数の省庁から予算が提出され、 前年度当初予算計599億円に対し平成30年度は728億円(概算要求額)と2割以上増額が検討された2。 例えば内閣サイバーセキュリティセンターとしては、2020年のオリパラ対策や、IoTのセキュリティ予算を新設している。 IoTのセキュリティでは総務省も関係省庁と連携して対応予定である。 産業系では、具体的なIT機器・製品のセキュリティ対策、一組織で対処困難なサイバー攻撃に対応するサイバーレスキュー隊の運用など、経産省が100億円規模でIPA((独)情報処理推進機構)により実施予定である。

今後、第4次産業革命を背景としたSociety5.0の実現をスローガンとして、 国と民間がうまく連携し、海外諸国に負けないスピード感をもった技術開発や社会実装を進め、多くの社会課題が解決されることを期待したい。

  1. ※1 ヘッドマウントディスプレイ
  2. ※2 金額は内閣サイバーセキュリティセンター資料に基づく。12月の政府案では数値が変更されたが合計額不明。