基礎研究

高齢者運転事故と防止対策

役職名
取締役
執筆者名
遠藤 寛靖

2017年3月2日

<アンケート調査>2017年2月、日常的に自動車を運転している、全国の1,000人を対象に、「自動車運転と事故」をテーマとするアンケート調査を実施しました。

本レポートでは、特に高齢者の自動車運転と事故に関する実態と意識、事故防止対策等について、調査で明らかになった結果の詳細をご紹介します。

レポート全文はこちらからご覧ください。
高齢者運転事故(PDF:1,521KB)

1.調査概要

(1)事前調査

今回は、事前に実施した予備調査において、現在一定以上の頻度で自動車の運転を行っている、各年代の男女計1,000人を抽出し、2017年2月8日~13日の間にインターネットによる調査を行った。

(2)調査対象

対象者1,000人(男性593人、女性407人)の主な属性は次のとおりである。

①年齢

20~29歳、30~59歳、60~64歳、65歳~69歳、70歳~74歳、75歳~79歳の各年齢区分ごとに150人ずつ、80歳以上で100人 (最若年20歳、最高齢94歳、平均44.7歳)。

②居住地域

全国47都道府県。

③職業

会社員(16.2%)、専業主婦・主夫(22.2%)、無職(37.7%)、自営業・自由業(7.5%)、パート・アルバイト(8.3%)、学生(1.7%) 等

④運転の頻度

本調査対象者の運転頻度の割合は次のとおり。
a)ほぼ毎日(36.8%)、b)週に3~4回(26.3%)、c)週に1~2回(26.5%)、d)月に数回(10.4%)
なお、上記 a) b) の合計は全体で63.1%であるが、65歳以上を見てもこの割合は62.0%とほぼ減少しておらず、高齢になっても自動車利用のニーズは変わらず高くなっている。

⑤運転の主な目的

年代層別での主な運転の目的は図表1のとおり。各年代を通じて最も多いのが「買物」で、60歳以降は特に割合が増加する。 「通勤・通学」で若年・中堅層が多いのは当然ながら、「仕事・業務」で60~64歳が中堅層よりも多い割合となっているのが目を引く。 65歳以上の高齢者については、「通院」「趣味・サークル」での自動車利用が中堅層以下と比較すると多くなっているが、その他の目的においても全体にアクティブに自動車を活用していると言える。

2.調査結果のポイント(抜粋)

(1)運転に対する自信

図表2と図表3は、各年代層別の運転に対する自信の割合。図表3は「かなり自信がある」と「ある程度自信がある」を「自信がある」、「あまり自信はない」と「自信はない(不安である)」を「自信がない」とまとめたものである。

20代から60代前半にかけては徐々に「自信がある」割合は減少していくが、その後65歳から運転に自信を持つドライバーの割合は急カーブを描いて上昇し、80歳以上では何と72.0%が「運転に自信あり」と回答している。もちろん、多くは長年の運転経験と無事故継続の歴史がベースになっていると推測するものの、視力や反射神経等の身体能力の衰えは必ずあるはずで、この現実と自己認識のギャップは他の多くの調査や研究でも問題視されている。

(2)「ヒヤリハット」と事故

図表4は、各年代層別の危険に遭遇した割合。ヒヤリハット経験とは、「突発的な事象やミスに、ヒヤリとしたり、ハッとした」経験であり、 ①~⑩の危険種類ごとにヒヤリハット経験、および実際に「事故につながったケース」(以下「事故ケース」)の割合を示している。

①アクセルとブレーキの踏み間違え

各報道でも大きくクローズアップされたこのリスクは、事故原因としては全体の中で6番目、75歳以上でも4番目である(事故原因トップはともに③ハンドル操作ミス)。 年齢別では事故ケースで80歳以上が15.4%と最も多いが、運転歴が浅い20歳代も経験者が多く、ヒヤリハット経験では1位、事故ケースでも2位となっている。

③ハンドル操作ミス

事故原因としては各年代において割合が非常に高く、特に75~79歳の事故ケースで30%と高い割合を示している。
なお、このリスクは運転に対する自信のある・なしにかかわらず、事故原因として多数を占めている。

⑤前の車や停車している車への追突(玉突き)

本リスクについては、事故ケースとして70~74歳が23.5%、75~79歳が25.0%であり、20歳代の8.7%、30~59歳の12.5%と比して非常に割合が高く出ている。
本対比項目の中でも、年齢による傾向差が比較的顕著に表れている例である。

⑦運転中の注意散漫

運転に関係のないことを考えたり、他のことに気をとられる・わき見をする、といったケース。
ヒヤリハット経験・事故ケース共に全体の中で2位と多くを占めている原因で、事故ケースでは20歳代の若年者と75歳以上の高齢者の割合が高い。
また、運転の自信度に関する分類でのクロス集計では、比較的「自信がある」層にヒヤリハット・事故ともに経験者が多く、 講習予備検査の結果で第2分類(認知機能低下のおそれ)に属する高齢者では、このリスクがヒヤリハット経験・事故ケースともに最も多かった。

⑧スリップ等でブレーキやハンドル操作が効かなくなった

事故ケースでは、スピードを出す傾向にある20歳代の若年層と30~59歳の中堅層に経験者が多く、年齢による傾向差がある項目の一つである。

⑨(自分の視力が原因で)信号や車、歩行者が見えなかった

ヒヤリハット経験は、75歳以上の高齢者に多くみられているが、事故ケースとしては65歳以上の該当回答はいずれの年代も0であった。

⑩(見通しの問題で)信号や車、歩行者が見えなかった

夜間である、雨が降っていた、あるいは建物などの影響で見通しが悪くなっていたために、信号や車、歩行者が見えなかったというケース。 ヒヤリハット経験割合では全体で第1位。事故ケースでは60~64歳が最多である。

この他、図表4には分類していないが、「一般道・高速道での反対車線の逆走」は、ヒヤリハット・事故ケースともに、 20歳代の若年層で若干の回答例が見られたが、 65歳以上での回答は想定に反し、ほぼ0に近い回答割合であった。

(3)事故防止に関する意識

①運転免許への年齢上限設定について

現在は一定の年齢以上になると、講習が義務付けられたり、更新期間が短くなる、といった措置が取られているが、高齢者運転事故の報道が増加するに伴って、 「取得できる年齢に制限があるように、返納する年齢にも上限を設けるべき」という議論も一部に出てきている。

本調査ではストレートに賛否を問うた結果、予想通りとはいえ、図表5のとおり、若年・中堅層は賛成が多く、高齢層は反対が多い、という結果が出た。

ただし、注目すべきは65~74歳の層において約4割が「上限制に賛成」と回答していることで、合計の割合では反対を上回っている。 一方80歳以上では58%が反対と回答しており、70歳前後では「たとえ実施されても、もう少し上の年代」という意識がある可能性もある。

②高齢者の運転事故対策に対する評価

各年代層のドライバーは、高齢者の運転事故に対してどのような対策が有効と考えるかについて、質問を行った。
全体での結果は図表7のとおり。

「有効であると思う」「ある程度有効であると思う」を合算した割合では、①自動ブレーキ装備車のみ運転許可(71.3%)、②免許更新を1年ごとに(54.4%)、 ③道路標識や信号を見やすいものに(52.1%)の順に高かった。

また、「マニュアル車(MT車)のみ運転許可」は本選択肢の中では最も有効性が低いと感じられているが、 これは「3.ヒヤリハットと事故」で見たとおり、大きく報道されている高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違いが、 事故原因として突出して多いものではないことや、販売台数の9割を超えるAT車の普及で、慣れないMT車がかえって危険であるという印象も大きいように思われる。

(4)自動運転に関する意識

自動運転技術は官民あげての取り組みにより、十数年後には日本でも完全自動運転が実現する、と言われている。
一方でその安全性や事故が起こった際の責任所在などの面で不安を抱いている人も多い。本設問では「人間の運転操作を行わなくとも自動で走行できる自動車」の事故防止への有効性と不安に思う点を聞いた。

図表8が事故防止への有効性に関する回答。全体で「有効」「ある程度有効」を合わせた割合は76.5%に達し、年代間のバラつきもさほど見られない。
対して「あまり有効ではない」「有効ではない」の割合は全体で16.1%で、20歳代の若年層と80歳以上に否定的な意見が目立つ。