レポート

ESGリスクトピックス 2020年度 No.6

2020.9.1

今月の主なトピックス

Environmental-環境-

<気候変動>
欧州委員会、「EU水素戦略」採択。化石燃料に代わるエネルギー源としての確立を目指す。

欧州委員会は7月8日、「EU水素戦略」を採択した。当戦略では、二酸化炭素を排出しないクリーン水素の大規模な生産、流通、貯蔵方法や各セクターの長期的な脱炭素化の実現手法が提示され、 EUグリーンディールの目標「2050年の温室効果ガス排出量ネットゼロ」への寄与が期待されている。

またEUではクリーン水素の研究開発への投資が、新技術開発のフレームワーク・プログラムにおいて行われている。2021年からスタートするプログラム「Horizon Europe」*では2020年までのプログラム 「Horizon2020」より予算も増額されていることより、より積極的な投資が推進されるものと思われる。

(参考情報:2020年7月8日付Adoption of EU hydrogen strategy

<インパクトファイナンス>
環境省、「インパクトファイナンスの基本的考え方」を公表。民間資金を巻き込んだ主流化が目的

環境省は7月15日、世界的な潮流となりつつあるインパクトファイナンス*について、その意義・満たすべき要素・基本的な取り組みの流れなどを整理した「インパクトファイナンスの基本的考え方」を発表した。 本文書は、インパクトファイナンスの民間資金を巻き込んだ主流化の第一歩として、大手金融機関、機関投資家における実践の促進を目的としたものである。

(参考情報:2020年7月15日付環境省 HP

<自然資本>
TCFDを補完する自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)始動。大手金融機関、英国、WBCSD等がすでに参加。

国連開発計画(UNDP)、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)、世界自然保護基金(WWF)、Global Canopy などを中心に、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の非公式ワーキンググループ(WG)を 立ち上げることが、7月21日に公表された。TNFDは、企業が環境劣化や生物多様性損失による財務影響について情報開示するためのフレームワークを策定し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)を補完することが期待される。

(参考情報:2020年7月21日付Global Canopy HP

(参考情報:2020年7月21日付TNFD HP

<気候変動>
アップル、2030年までにバリューチェーン全体でのカーボンニュートラルを宣言

米アップルは7月21日、2030年までに事業と製造サプライチェーン、製品ライフサイクル全体で二酸化炭素ネット排出量をゼロ(カーボンニュートラル)にすると発表した。 自社事業および全アップル社製品から排出される二酸化炭素のネットゼロを目指すもので、Scope3*まで含めた2030年までのカーボンニュートラルの宣言は同社が世界初となる。

(参考情報:2020年7月21日付apple HP

<気候変動>
TCFDコンソーシアムが「気候関連財務情報開示に関するガイダンス2.0(TCFDガイダンス2.0)」を公表

TCFDコンソーシアム*は7月31日、「気候関連財務情報開示に関するガイダンス2.0(TCFDガイダンス2.0)」を公表した。

本ガイダンスは、企業のTCFD提言に沿った情報開示の促進を目的として、解説や事例等をまとめたもの。初版に対して、①近年のTCFDに関する国内外の知見やデータを踏まえた解説の拡充、 ②業種別ガイダンスの追加(食品、銀行、生命保険、損害保険)、③日本企業を中心としたTCFD提言に沿った情報開示事例の拡充が行われている。

(参考情報:2020年7月31日付TCFDコンソーシアム HP

Social-社会-

<サプライチェーン>
「サプライチェーン イノベーション大賞」、物流効率化による働き方改革実現の3社を表彰

経済産業省は7月3日、「サプライチェーン イノベーション大賞 2020」の大賞に、PALTACと薬王堂、ユニ・チャーム3社による「キャリーを活用した一貫ユニットロード化」を決めた。 キャリーの使用による物流過程での積み降ろし効率化で、作業時間の約60%減を実現。働き方改革やホワイト物流の推進、SDGs達成に貢献した点などを評価した。 同賞はメーカーと卸、小売の計52社が参加し、同省が事務局を務める製・配・販連携協議会が運営する。

(参考情報:2020年7月3日付経済産業省 HP

<ダイバーシティ>
アクサ IM、先進国および新興国の企業に対しジェンダー・ダイバーシティに関する議決権行使を拡大へ

投資顧問会社のアクサ・インベストメント・マネージャーズは7月8日、ジェンダー・ダイバーシティに関する議決権行使の拡大を発表した。同社の投資先企業への影響力を高め、ガバナンス基準を改善させることが狙い。 2021年から先進国*の上場企業に対しては、取締役会の女性比率が3分の1を下回っている場合をジェンダー・ダイバーシティに欠けていると見なし、問題提起を行う。加えて、 今年から新興国や日本の上場企業に対して、取締役会に少なくとも1人の女性取締役を含めること(大規模な取締役会では全体の10%)を促す。

(参考情報:2020年7月8日付アクサ IM HP

<ダイバーシティ>
ユニリーバ・ジャパン、ウィズコロナ時代のパラレルキャリアを応援するプラットフォームによる副業人材募集を開始

ユニリーバ・ジャパンは7月16日、ウィズコロナ時代のパラレルキャリアを応援する新しいプラットフォーム「WAAP」(Work from Anywhere & Anytime with Parallel careers)での副業・インターンシップ人材の募集開始を発表した。 所属組織、年齢、ジェンダー、国籍、働く場所を問わず人材を募集する。新型コロナウイルスの感染が広がる中での働き方の変化を踏まえ、選考および業務は原則オンラインで実施し、ホームページで365日24時間応募を受け付ける。

(参考情報:2020年7月16日付ユニリーバ・ジャパン HP

<プライバシー保護>
経産省、消費者のプライバシー配慮で社内体制・ルール整備などの企業向けガイドブック案公表

経済産業省は7月29日、パーソナルデータを製品・サービスの提供に利・活用する企業が、消費者などのプライバシーへ配慮するために取り組むべき事項を取りまとめたガイドブック案を公表した。 企業がプライバシーガバナンスを経営戦略上の重要課題として位置づけ、必要な社内体制の構築や運用ルールの整備、プライバシーに係る企業文化の醸成などに取り組むことや、消費者などステークホルダーとの積極的な 対話を通じて信頼確保に努めることなどを盛り込んだ。

(参考情報:2020年7月29日付経済産業省 HP

Governance-ガバナンス-

<ガバナンス>
経済産業省、「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」を公表

経済産業省は7月31日、事業再編研究会*における議論を基に「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」(以下、ガイドライン)を策定・公表した。

同ガイドラインは、新型コロナ禍等による経営環境の急激な変化により、企業のコア事業や新規・成長事業へ経営資源を集中する必要性が高まっているとしたうえで、事業ポートフォリオの見直しや事業再編の促進にむけて、 経営陣、取締役会、投資家それぞれが抱える課題と対応の方向性をとりまとめたものである。

(参考情報:2020年7月31日付経済産業省 HP)

全般・その他

<ESG投資>
GPIF、「スチュワードシップ責任を果たすための方針」を更新、ESG考慮を明確化

日本の公的年金運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、6月29日に「スチュワードシップ責任を果たすための方針」を更新した。従来の「コンプライ・アンド・エクスプレイン」(原則を実施している項目に関しても、 自らの具体的な取組について積極的に説明を行う)の考え方を踏襲しながら、ESGの考慮をより明確化する。また、対象資産を株式から全資産に拡大する。今年3月に再改訂された「日本版スチュワードシップ・コード」に合わせた。

(参考情報:2020年7月1日付GPIF HP

<耐性菌>
世界製薬大手20社が薬剤耐性菌対策のファンド立ち上げ、10億米ドル規模の抗菌薬開発投資

世界の製薬会社で構成する国際製薬団体連合会(IFPMA)は7月10日、大手バイオ製薬企業20社以上と協働で薬剤耐性菌(AMR)対策支援ファンド「AMR Action Fund」を設立した。 有効な抗菌薬の開発や持続的な供給能力強化に向け、10億米ドルの投資を決定。2030年までに新規の抗菌薬2剤から4剤の製品化を目指す。

(参考情報:2020年7月10日付国際製薬団体連合会 HP

<生物多様性>
世界経済フォーラムが「自然とビジネスの未来」を公表

世界経済フォーラムは7月14日、自然に配慮した新たな経済に関する報告書*「自然とビジネスの未来」を公表した。本報告書では、環境負荷の大きい「食」「インフラ」「エネルギー」関連のビジネスが、 自然環境に重点を置いた経営に舵を切ることにより、2030年までに年間10.1兆ドルのビジネスチャンスと3.95億人の雇用を創出できると提言し、2030年のあるべき姿と改善された実例を示している。

(参考情報:2020年7月14日付世界経済フォーラム HP

<ESG投資>
日銀、公表の論文でESG投資活性化のため機関投資家・企業に理解促進を強調

日本銀行は7月16日に公表した論文で、日本の機関投資家が「ESG投資を行う目的意識や運用方針、体制面で整備されていない」と評価した上で、国際競争力の向上や国内金融市場の活性化のため、 ESG要素など非財務情報について機関投資家・企業双方の理解促進が必要と結論づけた。

その中で、機関投資家が直面する共通課題に、①ESG投資に利用可能な情報が限られている②ESG要素と金銭的リターンの関係性に確信が持てない③先行きの検討にあたり、考慮すべき要素 (政治・政策、科学技術、気候変動の影響度など)にかかる不確実性が大きい④最新の科学技術などの専門知識を活用できる体制整備が必要――の4点を挙げた。

(参考情報:2020年7月16日付日本銀行 HP「ESG 投資を巡るわが国の機関投資家の動向について」

今月の『注目』トピックス

<ガバナンス>
経産省、社外取締役の経営監督機能発揮で役割指針を公表

(参考情報1:2020年7月31日付経産省 HP

経済産業省は7月31日、社外取締役に求められる役割を果たすために役立つ具体策を示した「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」を公表した。 企業の持続的な成長に向け、社外取締役に実質的な機能の発揮を促すのが目的。

指針では、社外取締役の基本的な役割を5つの心得で提示。経営の監督を最重要の役割とし、社内のしがらみや利害関係にとらわれない立場で経営戦略を検討し、経営陣に意見する役割も挙げた。 さらに、必要な場合には社長・CEOの交代を主導するよう求めた。

Q&A

Question

2020年6月12日に改正公益通報者保護法が成立しました。当社も内部通報窓口を設置していますが、今回の改正を受けどのような点に留意すべきでしょうか。

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