レポート

2013年度 No.4 「中国における交通事故の実態と事故対応時の留意点」

2013.8.1

はじめに

初めて中国を訪れる日本人が必ず驚かされることのひとつは、タクシー等の自動車の運転にしばしばヒヤッとさせられることである。出張者や旅行者の多くは、空港から市内中心部までの移動にタクシーを使うが、空港と市内中心部は高速走行が可能な自動車専用道路で結ばれているケースが多いので、猛スピードでの追い越しや車線変更など、カーチェイスのような運転を中国に足を踏み入れて早々に体験することになる。筆者は中国に6年間駐在していたが、日本からの出張者に「これでよく事故が起きないものですね」と何度となく言われたことがある。しかしながら、実際にはたくさんの事故を目にしてきたし、自分自身も軽微ではあったが事故を経験したことがある。中国で数年程度生活した日本人であれば、誰しも一度や二度は交通事故に遭遇した、あるいはまさしく事故に至りそうな危険な目にあった経験があるのではないだろうか。本稿では、中国における交通事故の実態と、事故対応時の留意点を紹介する。

1. 中国における交通事故の実態

(1) 概況

中国における交通事故死亡者数は2010年時点で65,225人である。同年の日本における交通事故死亡者数は4,863人であるから、中国では日本のおよそ13.4倍の人が交通事故で亡くなったことになる。中国の人口は日本のおよそ10.6倍であり、人口の差だけを勘案すればこれ自体は驚くべき数字ではないと思われる。(図1)

しかし、両国の自動車保有台数に目を向けた場合、2010年時点で日中の数字がほぼ拮抗1していたことを考慮すると、「一台の自動車が死亡事故を引き起こす確率」は、中国が日本を10倍以上も上回っている計算になる。中国においても、交通違反の取り締まり強化や飲酒運転の厳罰化などの対策により、死亡者数は徐々に減少傾向にあるとはいえ、日本との比較においては、なお過酷な状況にあるといえる。2

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