コンサルタントコラム

交通安全教育でドライバーの社会性を育む

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
交通事故防止コンサルティング
役職名
リスクマネジメント第二部 名古屋事務所 マネジャー・上席コンサルタント
執筆者名
澤野 滋明 Shigeaki Sawano

2017.12.12

「東名高速道路死亡事故、危険運転の男を危険運転致死傷罪で起訴」

今から1ヶ月ほど前、新聞紙面やテレビなどで頻繁に目にしたニュースだ。このニュースをきっかけに、ドライバーの「あおり運転」を含めた危険運転の実態を知る機会が増えた。警察庁のまとめによると、あおり運転など車間距離保持義務違反で摘発した件数は2016年で7625件、その9割近くの6690件は高速道路上の違反であったという。上記の事故のような極端な危険運転のドライバーは稀な存在と信じたいが、実態としては多くのドライバーが危険運転を行っていることがうかがえる。

確かに、筆者が東名高速道路を利用する際も車間距離を詰めあおり運転している車をよく見かける。人間は先を急ぐ生き物と言われるが、車の運転においてもその性質が顕著に表れている場面といえるだろう。「そんなに急いでも目的地への到着時間はさほど変わりませんよ。」と言いたいところだが、このような場面以外でも人間の急ぎの性質を現す運転場面が日常的にある。例えば信号交差点を通過する際に信号が黄色に変化した場合、目的地まで急ぐ必要がなくても「信号で待ちたくない」という急ぎの心理が働き、停止線で十分止まれる状況でも逆にアクセルを踏み込んで通過するということは、おそらく多くのドライバーが経験した運転行動だろう。

筆者は運輸事業者・一般企業を中心に交通事故防止活動の支援に従事しているが、ドライバーには「車間距離の保持」を最優先の運転行動として指導している。その趣旨は実際に車間距離をとることもさることながら、車間距離をとろうとするドライバーの気持ちが、すべての安全運転行動(黄色信号でのイエローストップ、交差点での一時停止など)に通ずる大事な「安全運転意識」だと認識しているからだ。

交通心理学者エスコ・ケスキネンによると、安全運転には4種類の技能が必要とされている(④車両操作、③交通状況への適応、②運行計画、①社会性)。順位が④→①となっているのは、順位が上がるほど重要度が高い技能であるからだ。すなわち、いかに運転技術や交通状況への適応技能が高くても、余裕のある運行計画の立案ができない、また、「安全に運転しよう、事故を起こさないようにしよう」という人としての責任感が持てない、他の交通利用者に対する配慮ができないという、人間社会における「社会性」が持てなければ安全運転にはならないということだ。交通安全教育では精神論ではない「安全運転意識」こそ教育すべき最重要課題であるといえる。

公共の道路で出会う他の利用者はその大多数が知らない人だが、同じ利用者として相手に配慮する運転ができるドライバーを育むことこそ交通安全教育に求められることで、その最たるものが「車間距離をとろう」とする意識に表われるのではないかと思う。

社会性という言葉は辞書をひも解くと、「集団をつくり他人とかかわって生活しようとする、人間の本能的性質・傾向。」とある。社会性が人間の本能的性質であるならば、交通社会においてもその本質を発揮することは可能なはずだ。人間に備わった社会性を運転中に発揮できるアプローチを、交通安全に関わるものとして今後も強く意識して行っていきたい。

以上

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