コンサルタントコラム

所属
インターリスク・上海
役職名
高級経理
執筆者名
石川 智則 Tomonori Ishikawa

2017年9月8日

中国に赴任して1年半になろうとしている。上海を起点に、中国国内の日系企業を訪れ、防災調査、事業継続計画(BCP)の整備、BCP訓練の企画運営等のコンサルティング業務を手掛ける中で、日本とのリスク認識の違いを感じる。

リスク認識は、先ず事象が潜在することに気付くこと、さらに、その事象が顕在化した際の負の影響を予見することが重要である。この予見は主観的なものである。将来的に顕在化しても、予見する人を取巻く環境、社会的な背景、人々の価値意識等が異なれば、悪影響の程度が異なるためリスクとは認識されないかもしれない。これは、普通のリスク認識のあり方であり、日本と他国との間にあるリスク認識の乖離の原因であると考えらえる。中国での一例を示そう。企業が個人情報を漏洩すると、一般的に日本では報道機関が取上げ企業イメージの低下につながる。中国でも同様に企業はSNS等で非難されるであろうが、日本ほど大きな問題として取り上げられることはないだろう。中国の人々の意識の中には、自分の個人情報はどこからともなく漏れ出ているという共通認識や、携帯電話に業者から勧誘等の電話がなぜか頻繁にかかってくるという日常があり、個人情報の漏洩対策は既に有名無実化している。このように、漏洩するという事実が常態化し、社会的に必ずしも問題視されていない状態が続くことにより、リスクは単なる日常の問題と捉えられるだけである。

少し観点が異なるが、悪影響の程度が同じであるにも関わらず、リスクを軽視してしまうことは危険である。昨冬以降、中国では鳥インフルエンザウィルスのトリからヒトへの感染が増えており、国家衛生・計画生育委員会の公表データによると、本年1月~6月の期間に感染者636人、死亡者261人を数え前年同期の各97人、40人から大幅に増加している。現在は、トリからヒトへの極めて限定的な感染に留まっているとの当局発表があるが、ウィルスの変異によってヒトからヒトへの感染力を確保した場合のパンデミックという事象が潜在していると考えられる。中国では、高速鉄道、航空路線、高速道路の整備が目覚ましいため、瞬く間に国内にウィルスが広がる可能性がある。日本では、2009年に豚由来のインフルエンザ流行時の混乱を経験しているが、中国において鳥インフルエンザをリスクと認識し対策を講じている企業は少ないように思える。これは、軽視というよりも他の諸問題への対処を優先するための許容かもしれないが、致死率の高いウィルスが蔓延した場合の対処は検討しておいた方が良いと考えられる。

近頃、自分自身のリスク認識も少しずつ変わっていることを感じる。防災調査で工場を訪れると、喫煙所以外で捨てられているタバコの吸い殻を頻繁に目にする。これは、日本ではあまり目にすることがない光景である。赴任当初は、この喫煙管理に問題意識を感じていたのであるが、タバコのポイ捨てを日常的に見ているからか、危なさを感じなくなっている自分に気がつく。煙草の不始末による火災が多いというデータがあるにも関わらず、良くない傾向である。中国に限らず海外赴任者は、当地の環境や習慣に慣れなくてはならない。しかしながら、その慣れによるリスク認識の歪みが不適切なリスク許容にならぬよう留意した方が良い。日本の感覚や常識を思い出しつつ、今一度、自らを取巻くリスクを再検証する必要性を感ずる。

以上

(2017年9月7日 三友新聞掲載記事を転載)

小島 勝治 Katsuji Kojima
氏名
石川 智則 Tomonori Ishikawa
役職
インターリスク・上海 高級経理
専門領域
ERM(統合的リスク管理)、会社法内部統制、企業の危機管理対策、コンプライアンス、会社役員賠償責任、その他企業のリスクマネジメント対策全般