コンサルタントコラム

ヘイズ問題から見る消費行動の変化の可能性と自然保護

所属
インターリスク・アジア
役職名
ディレクター
執筆者名
工藤 信介 Shinsuke Kudo

2016年12月12日

今後も域内連携の深化と経済発展が期待されているASEAN地域だが、域内開発格差(経済格差)や物流・税関手続き等の連結性といった課題も多く残されている。そのうち、人々の生活と健康に影響を与えている課題として、ヘイズ(煙害)問題がある。

ヘイズとは、シンガポールやインドネシアの乾季の時期にあたる6月から10月頃にかけてほぼ毎年発生する大気汚染である。インドネシアのスマトラ島やカリマンタン島の野焼きや森林火災によって生じた煙が、南西季節風(Southwest Monsoon)によってマレーシアやシンガポールなどの周辺国に流れて行くことでヘイズ問題を発生させる。ヘイズの煙には塵、窒素酸化物、硫黄化合物などの微粒子が含まれており、呼吸器系の疾患などの健康被害を生じさせることがある。ヘイズで視界が遮られて空港が閉鎖されることもあり、航空運輸業や観光産業にも影響を与えることがある。

ヘイズの主な発生要因として、泥炭地での火災が挙げられる。世界の泥炭地の約60%、約25百万ヘクタールが東南アジア地域にあり、そのうち70%の泥炭地がインドネシアにあるとされている。適切な排水管理を実施せずに泥炭地で道路や農地が開発された場合、土壌に含まれる水分量や地下水位が低下して泥炭地が乾燥してしまい、火災が発生しやすい状態になる。特に降水量が少なくなる乾季には地下水位が低下して泥炭表層の含水量も下がるため、泥炭そのものが引火しやすくなる。落雷などの自然現象や違法野焼きなどによって泥炭地で火災が発生し、ある程度火災が進行すると、地表面のみだけでなく地中の泥炭が燃焼してしまうため消火が困難になる。泥炭火災は炎を出さずにくすぶる燻燃の燃焼形態を持ち、煙や二酸化炭素を多く発生させるため、越境して近隣国へ影響を及ぼすヘイズの主要因とされている。

ヘイズの発生防止に向けて、ASEANでは泥炭地の適切な管理を実施する計画(APSMPE 2014-2020)などを策定している。しかし、違法野焼きの不十分な取締りが泥炭火災防止の障壁となっている現状がある。また、違法野焼きが実施される背景には、泥炭地周辺に居住する住民の所得水準が低く、焼畑が最も経済的な農地開発手段となっているといった経済的要因もある。

泥炭地で不適切なプランテーション開発や工場開発が行われている背景要因として、消費者側の需要や企業や個人の投資行動を通じた開発行為への間接的な関与も挙げられる。そのため、ヘイズ問題の解決への取組は、消費者一人ひとりの行動変化や投資行動の変化を促して行く可能性がある。例えばシンガポールでは、ヘイズ発生の要因には自分達の消費行動やヘイズ問題の背景要因に関する認識不足があるとの考えから、「Haze-Free Cooking Oil」が使用されている商品の購入を消費者に呼びかけている団体などがある。

WWFによれば、世界に現存する熱帯雨林の10%がインドネシアにあり、哺乳類の12%、爬虫類・両生類の7.3%、鳥類の17%が生息しているとされている。無秩序な土地開発を抑制していくことは、ヘイズの発生を防止するだけでなく、世界的にも貴重な自然を保護することにも繋がる。

以上

(2016年12月1日 三友新聞掲載記事を転載)

工藤 信介 Shinsuke Kudo
氏名
工藤 信介 Shinsuke Kudo
役職
インターリスク・アジア ディレクター
専門領域
海外リスクマネジメント