コンサルタントコラム

日本版クラスアクション施行と企業への影響について

所属
事業リスクマネジメント部 CSR・法務グループ
役職名
マネジャー・上席コンサルタント
執筆者名
井上 知己 Tomomi Inoue

2016年5月9日

いわゆる日本版クラスアクション制度(法律名:消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律)が、本年10月1日よりいよいよ施行となる。同制度は、以下対象事案について、国が認定した「適格消費者団体」が消費者に代わり訴えを起こす方式をとるなど、米国型のクラスアクションとは一線を画する形で導入される経緯にある。

(対象事案)

消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた被害に関する以下の請求。ただし、直接的な財産損害(例えば欠陥製品・サービスの購入代金)に限られ、拡大損害、逸失利益、人身損害、慰謝料に関わる請求は対象とならない。

  • 債務の履行の請求
  • 不当利得にかかる請求
  • 契約上の債務の不履行に基づく損害賠償の請求
  • 瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求
  • 不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の責任

消費者庁作成の「消費者裁判手続特例法Q&A」(以下「Q&A」)では、ゴルフ会員権の預かり金などを返還しない場合の返還請求や、経営実体のない会社の未公開株の購入勧誘などの詐欺的商法による損害賠償請求により、数十人以上が被害を受けた事案などが、具体的な適用対象として例示されている。また、Q&Aで悪徳商法への対処が強調されていることなどから、導入当初は特に悪質な事案や社会的に影響が大きい事案が対象とされ、企業への影響は限定的とする見解もみられる。

しかし、上記「対象事案」のとおり、制度上は、消費者との間で生じるほとんどのトラブルが対象になり得る点には留意が必要であろう。制度の運用次第で企業にとっての影響は予想以上に大きくなる可能性もあり、例えば以下のとおり、コンプライアンスや苦情対応等の面から、社内態勢強化の必要性を検討しておくことが望まれる。

①コンプライアンス態勢の強化

対象となる損害の代表格は、法令違反等を伴う事業活動上の行為の結果、多数の消費者に影響が及ぶ場合であろう。特に、販売やサービス提供プロセスに違法な点や虚偽とみなされるような説明等があり、その結果として多数の消費者に損害が生じた場合、訴えの原因となることがありえる。

このため、企業としては、契約やパンフレット等の内容を含め、自社の販売プロセスが適法かつ適正なものとなっているか、十分に検証しておく必要があろう。

②苦情対応等の強化

Q&Aによれば、適格消費者団体は相当多数の消費者への被害が生じているかどうかについて、消費生活センター等の苦情情報を利用して把握することになる。特定の製品やサービスを原因として自社に複数の消費者から苦情が入る場合、同様に消費生活センター等にも入っている可能性があり、企業が自ら対応しない場合、適格消費者団体が対応に動くことが考えられる。

このため、企業として苦情を迅速に把握し、場合によってはリコール等を含め適切に対処する態勢が一層重要となろう。

会社法で企業に要請される内部統制システムは、コンプライアンスとリスク管理、危機管理を包含したものであるが、上記は、その実効性を高める取組ともいえる。

日本版クラスアクションの影響については、施行後の運用動向を注視する必要はあるが、企業としては、自社の内部統制システムの実効性を検証し、必要に応じた見直しを着実に進めることが肝要であろう。

以上

(2016年4月21日 三友新聞掲載記事を転載)

井上 知己 Tomomi Inoue
氏名
井上 知己 Tomomi Inoue
役職
事業リスクマネジメント部 CSR・法務グループ マネジャー・上席コンサルタント
専門領域
総合リスクマネジメント/コンプライアンス対策/危機管理対策/製品安全・リスクアセスメント/国内外のPL法・PL対策/会社役員賠償責任/企業のリーガルリスク評価/その他法務リスク全般