コンサルタントコラム

化学災害に対するリテラシーを高める~中国・天津爆発事故からの考察~

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
火災・爆発リスク低減のための調査・コンサルティング
役職名
災害リスクマネジメント部 リスクエンジニアリンググループ グループ長
執筆者名
三和 多賀司 Takashi Miwa

2015.10.9

去る8月12日に中国・天津の経済技術開発区で発生した化学品倉庫における大規模な爆発事故は、不幸にも多くの人的・物的な被害をもたらす歴史的な災害となった。
当該地域は中国経済の要所の一つであり、進出している多くの日系企業が被災し操業を中断せざるを得なくなったこともあり、日本でも関心が非常に高かった。
この事故に関しては、現場に極めて危険な化学物質が違法かつ大量に貯蔵されていた、公的消防機関の対応力が脆弱であった等の報道がなされているほか、懸念された有毒物質の漏えいに関して十分な情報が提供されず多くの風評が蔓延したなど、日本では想定しにくい数々の事象が現場の混乱を増大させた面があると思われる。
このようなことから、中国に限らず新興国に進出する企業においては、自社のみならず、近隣で大規模な産業災害が発生した場合、災害の終息とその後の事業復旧対応は想定以上に難しいものであることを改めて感じたのではなかろうか。
化学品に対する高度な専門性を持たない事業者が、近隣から有毒化学物質が大量にいっ出・流出するような災害(本稿で「化学災害」とする)に遭遇した場合、初動対応として取るべき行動は、いち早く安全に避難、退避することである。しかし、有益かつ信頼のおける情報が得られず、何がどれだけ流出しているのかわからない状況で、従業員や家族の生命を守るための正しい行動を迅速にとれるであろうか。
自社のリスクアセスメントでは危険な物質や作業の洗い出しと、リスク低減の取組みを行っている企業においても、近隣から被る化学災害に対しての備えまでを十分にしておくことは極めて難しい。
新興国においては化学災害をはじめとする特殊災害への公的な防災対応インフラ、スキルは日本のレベルには及ばず、また法的コントロールや情報開示も十分ではないと想定される。そのような環境下で事業を行うには、事業者の自衛対策をさらに高めることが必要ではないだろうか。
化学災害への対策としては、平時から近隣の事業者や消防・警察などの行政機関との情報連携、環境測定業者との提携等を行い、必要に応じ化学物質の流出を想定した避難訓練(対象物質や発災時の風向などを考慮)を実施しておくことなどが重要であろう。また、事業所の保安や復旧に率先して携わる要員に対しては防毒・防塵マスク、ゴーグル、防護服、ポータブル型のガス検知器などを一定数配備しておく必要があろう。普段なじみのない装備については、正しい使用方法を学び、装着状態での避難訓練なども必要である。
在外の事業所を支える立場の日本側においても、万が一現地で発災し、日本からの緊急支援が必要になることを想定して、支援体制の整備、応急資器材の選定やストックなどを検討しておく必要があるだろう。
日本でも高度経済成長期には多くの化学災害を経験したが、長年にわたる安全操業が定着し、災害の経験者や対応に習熟した人材が減少しているとも言われている。今回の天津の事故はあらゆる意味で企業の化学災害に対するリテラシー向上の必要性を再認識する事故であったといえる。

以上

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