コンサルタントコラム

中国における「環境・安全強化」に向けた動き

所属
インターリスク・上海
役職名
董事 総経理
執筆者名
伊納 正宏 Masahiro Ino

2015年7月22日

ここ数年、中国では企業のリスクマネジメント取組みに大きな影響を与える重要な法改正が相次いでいる。主なものは「安全生産法」(2002年11月制定、2014年12月改正法施行)、「環境保護法」(1989年12月制定、2015年1月1日改正法施行)、「食品安全法」(2009年2月制定、2015年10月改正法施行)である。個々の法律の制定時期にはバラツキがあるものの、共通点としては①いずれの法律も今次改定が制定後初となる全面改正であること、②政府機関の管理監督権限が強化されたこと、③法を犯した関係者(政府機関、企業、ならびにこれら組織に所属する個人)に対する罰則が強化されたこと、の3つが挙げられる。中でも罰則制度は日本の水準を大きく上回るものであり、例えば改正安全生産法では罰金の最高額が企業で2,000万元(約4億円)、個人で前年年収の10割と定められている。また食品安全法では懲罰賠償(日本では懲罰賠償制度は存在しない)の金額が「代金の10倍」から「代金の10倍または損害額の3倍」に拡充された。

こうした法改正の背景には、「一向に改善しない環境汚染」、「工場などで相次ぐ火災・爆発事故」、「食の安全に対する消費者の不信感」などが挙げられるが、さらには企業がこうした事故を発生させたとしても、再発防止策にコストをかけるよりも罰金額を納めた方が安いという法の抑止力の問題が横たわっていた点もある。個人に対するペナルティを強化することで抑止力を持たせるストレートなやり方はいかにも中国らしいといえよう。

では、こうした相次ぐ法改正を企業としてはどう捉えるべきであろうか。筆者はここ中国でも「環境・安全」に対する消費者の価値観が大きくなりつつあるものと考えている。ご承知の通り、中国は改革・開放以降の目覚ましい経済成長を経て、近時は「新常態(ニューノーマル)」とも呼ばれる、質の向上に重点を置いた経済構造改革にカジを切ろうとしているが、日本がかつてそうだったように、生活水準の向上に伴う形で国民の期待レベルが「価格」から「価格+品質」となり、成熟社会の入り口にさしかかった今はこれに「環境・安全」が加わろうとしている。党や政府にとってもこうした消費者の期待をないがしろにすれば、批判の矛先が自分たちに向きかねないと考えている。今回の一連の法改正はこうした流れの中で起きている事象であると捉えるべきであろう。

もっとも中国では「法の制定と執行は別もの」といった考えも未だによく聞かれるが、最近の大規模事故のケースでは企業関係者のみならず各地方政府のトップ級が責任をとって辞任しているケースが多く、ここでも党・政府の本気度合いがみてとれる。今後は当局からの通達や監査などの機会が増えることも予想され、2010年代後半は「環境・安全」が企業経営における重要なキーワードの1つとなることも有りえよう。企業としては中国で起きているこのような「環境・安全強化」のトレンドを把握した上で、自社の環境対策や安全対策の現状をレビューの上、改善すべき点があれば速やかに是正に乗り出すべきであろう。

以上

(2015年7月16日 三友新聞掲載記事を転載)

伊納 正宏 Masahiro Ino
氏名
伊納 正宏 Masahiro Ino
役職
インターリスク・上海 董事 総経理
専門領域
ERM(統合的リスク管理)/会社法内部統制/企業の危機管理対策/コンプライアンス/会社役員賠償責任/その他企業のリスクマネジメント対策全般