コンサルタントコラム

アセアン(ASEAN)における労働災害の傾向と対策

所属
インターリスク・アジア
役職名
ディレクター
執筆者名
山村 亮 Akira Yamamura

2014年12月3日

労働災害はコスト面や生産性だけではなく、労働者のモチベーション・企業イメージの低下など様々な問題に波及する可能性があります。アセアン諸国においても地域経済力の向上、労働者の安全意識や権利意識の向上に伴い、労災リスクが労務管理の重要課題として、より重視されるようになっています。

アセアン諸国では、労働災害に関する情報を詳細かつタイムリーに開示している国が少なく、また、各国の統計では数値の集計方法等が一致していないことから、単純に比較するのは困難です。ただ、一定の傾向値としては次の状況にあります就業者10万人あたりの労災死者発生率の情報が入手できた国々における比較では、日本1.6人(2013年)、シンガポール1.7人(2013年)、マレーシア9.0人(2012年)、タイ7.2人(2011年)となっています。

重大災害が発生した場合、現地当局による調査は年々厳しくなっており、原因究明・再発防止策確立まで操業停止が長期間にわたるケースもあります。実際にシンガポールでは、有効性の高い防止対策が事業者側から提出されない限り事業再開を認めないなど、厳格に取り組まれています。その効果もあり、10年前には10万人当たり5人を超えていた水準が、現在では日本とほぼ同水準まで改善されています。

一方でマレーシア・タイでは、労災死者発生率は依然高く10万人当たり7人以上です。他のアセアン諸国での近年のデータは入手できませんでしたが、同程度もしくは上回る水準ではないかと推察されます。ただし、これらの国でも労災防止の機運は高まっており、事業運営上の課題として益々重要視されることは確実です。

労災発生の基本要因として「4つのM」、すなわちMan(人的要因)、Machine(機械設備などの物的要因)、Media(作業の情報・環境などの要因)、Management(管理上の要因)が挙げられます。これらの要因が、作業環境や設備機器の「不安全状態」や人の「不安全行動」として「事故」を誘発し、人が介在すれば「災害」となります。4つの要因の根源には何かしら安全管理活動の欠陥があり、これらの強化が重要なポイントとなります。安全衛生管理の仕組みの代表的なものに「OSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)」を基にした国際規格OHSAS18000シリーズがあり、アセアン諸国でも認証を取得する工場が増えています。このような組織としての仕組みづくりを行い、継続していくことが重要です。しかしながら、アセアン各国を現場調査で回っていると、「保護具の未着用」「危険箇所での不十分な安全対策」「電気設備等の管理の不備」といった基本的な安全管理の不備が多々見受けられ、現場レベルまで安全意識を徹底することが、いかに大変であるかが伺えます。

労働災害は人材の損失、機材の損失、医療費、代替要員の育成、事故調査に費やす時間、訴訟費用等、時間と金銭の両面において経営に多大な損失を招きます。労働安全衛生の取り組みは災害発生防止だけでなく、生産性の向上、従業員・お客さまから信頼の獲得、企業の体質強化・価値向上にもつながる重要な取り組みです。

労働災害におけるその国特有のリスク要因は必ずしも大きくなく、どの国においても安全衛生管理の水準を一定以上に上げることで、その発生頻度は低減できると感じます。ただし、安全衛生管理の仕組みを現場レベルにどのように徹底していくかについては、各現場での創意工夫が必要となります。

以上

(2014年11月27日 三友新聞掲載記事を転載)

山村 亮 Akira Yamamura
氏名
山村 亮 Akira Yamamura
役職
インターリスク・アジア ディレクター
専門領域
海外リスクマネジメント