コンサルタントコラム

東京湾の高潮リスク

所属
総合企画部 リスク計量評価チーム
役職名
コンサルタント
執筆者名
久松 力人 Rikito Hisamatsu

2014年10月1日

「津波と伝えてほしかった。」この言葉は、昨年、過去最大級の高潮がフィリピンを襲った際の被災者の声です。当時フィリピンの気象予報当局は高潮を警告していたにも関わらず、多くの人は高潮への理解が浅く、十分な対応ができなかったため、甚大な被害となりました。

では我々日本人はどれだけの人が高潮を理解しているでしょうか。日本各地で高潮被害を被ってきたにも関わらず、その高潮に対する認識が十分ではありません。政府や自治体では高潮の被害想定やそれに対応した護岸構造物等を設計している一方で、危険とされる地域の企業や住民は高潮被害への関心が低い傾向にあり、政府とは高潮の危険性に対する認識に温度差が生じていると感じています。ここで今一度、高潮リスクについて津波と比較して考えてみます。

高潮とは主に台風に起因したもので、気圧差による吸い上げ効果、強風による吹き寄せ効果等により水位が上昇する現象のことです。発生メカニズムの異なる津波と比較すると、特に湾の奥での水位上昇が局所的に顕著になるのが特徴です。日本付近では台風が南から北へ進行することが多いため、地形上、南に開いた湾が危険とされています。日本では南に開いた湾が大変多く、沿岸部に多数の住居や会社が密集する伊勢湾や東京湾も高潮リスクが高い湾とされ、過去に甚大な被害を被っています。

伊勢湾では、1959年9月の伊勢湾台風により日本で一番有名な高潮災害が発生しました。名古屋では約3.5mの潮位上昇を記録し、5000名を超える死者・行方不明者が出ました。家屋は36万棟以上が浸水し、伊勢湾台風による被害総額は現在の価値で4.5兆円とも試算されています。また東京湾においても、1949年のキティ台風による高潮で大きな被害を受けました。このような大きな高潮被害をこれまでに経験していながら、東日本太平洋沖地震による津波被害およびそれに対応した政府の想定を受けて、高潮より津波被害へ関心が移っているのが実態だと考えています。

政府の発表によると、2012年に南海トラフ地震により最大34mの津波高が発生する想定結果を示し、センセーショナルなニュースとして世間を騒がせました。また2010年には、東京湾奥部における高潮による浸水深が約5mという想定結果を発表しています。これら二つを比較すると、高潮の被害を少なく感じる方が一般的だと思います。しかし、津波と高潮の特性を理解して数字を比較すると、実は [津波>高潮] の関係だけではないことが分かります。

というのも、企業や人口が集積する東京湾奥部での政府の想定する浸水深の結果にフォーカスすると、南海トラフで約3m(津波高)、首都直下で約4m(津波高)に対し、高潮は約5m(浸水深)と津波の想定結果を上回るからです。高潮はその特性上、湾奥部で非常に卓越するため、三大湾のような人口や建物も集積する地域の水位は高くなり、当該地域では津波による水位さえ越える可能性もあります。つまり津波の浸水想定では影響が無いものの、高潮では浸水が予想される地域が存在するのです。津波の対策によって高潮も完全に防げるというわけではないのです。したがって、特に人口集積地域である東京湾エリアでは、自宅や自社における高潮リスクを確認する必要があるのではないでしょうか。高潮リスクへの認識がより深まることを望んでいます。

以上

(2014年9月25日 三友新聞掲載記事を転載)

久松 力人 Rikito Hisamatsu
氏名
久松 力人 Rikito Hisamatsu
役職
総合企画部 計量評価チーム コンサルタント
専門領域
海岸工学