コンサルタントコラム

なにがサプライチェーンを脆くするのか~BOMと調達リスク

所属
総合企画部
役職名
マネジャー・上席コンサルタント
執筆者名
早川 正希 Masaki Hayakawa

2014年3月24日

製造業向けのITソリューションを専門とされる方から、東日本大震災の際に複数の企業から同じような依頼を受けた、という興味深い話をうかがったことがある。その依頼とは、「BOMの逆読みができないか」というものだったそうである。

BOM(Bill of Materials:部品表)とは言うまでもなく生産管理の核であり、製品がどの部品や原資材から製造されるのかを示したリストである。なぜ震災時にその逆読みの需要が発生するのか。これは、製品を製造するために必要な部品を把握することはできるが、ある部品がどの製品に関係しているのかを速やかに特定することが、多くの企業にとって困難であったことを意味する。サプライヤーが被災し、ある部品の調達が途絶したとする。この途絶が、どの製品の生産のボトルネックになるのか、生産を優先すべき製品はどれか、部品の保有在庫はどの程度あるのか、代替品の調達は可能か、生産計画の変更を顧客や他のサプライヤーにどのように伝えるのか。場合によっては自らも被災している状況のなか、こういった課題が突きつけられる。この時点で、「BOMの逆読み」から取り組まなければならない企業と、事前の備えがある企業との間には、容易に埋めることのできない差が生じることは明らかである。実際に、ある空調メーカーは東日本大震災の経験を踏まえ、途絶部品の特定から12時間程度で、「どの工場の生産機種に影響がでるか」を把握できる態勢を構築したという。

東日本大震災では主要部品ではなく、添加剤、保守部品といった副資材の調達途絶がサプライチェーンを停止させた例が数多く報告された。その多くに共通しているのが「BOMに記載されていない調達であり、問題の捕捉に時間がかかった」という理由である。ある衛生陶器メーカーでは、物流センターの震災で被災した自動立体倉庫の再稼働に2か月を要した経験から、倉庫の保守部品であるセンサーやケーブル類の備蓄を持つようにした。BOMにもいろいろな種類があり、例えば保守部品などを管理する「保守BOM」と呼ばれるものも存在するが、これらの部品に関する在庫保有方針は常日頃から明確にしておく必要がある。

この他にもBOMについては、事業部間での不整合という、根本的な問題に対する指摘がある。BOM上の部品コードを統合する抜本的なシステム改革は、現場に負担がかかるためどうしても敬遠されるが、事業部間、グループ会社間で同一部品の在庫情報が統合されれば、サプライチェーンマネジメント本来の目的である全体最適化への第一歩となる。また統合された情報は、調達途絶時に活用できる仮想在庫となるかもしれない。ある企業のITシステム改革において、経営トップが海外グループ会社も含めた部品コードの完全統合を断行したことが、事業継続に大いに有効だったという例がある。2004年の中越地震で周辺企業が大打撃を受けるなか、同社は生産製品のBOMを海外工場に送付しただけで、6日後には代替生産を立ち上げることができたという。

BOMをキーワードにサプライチェーンの脆弱性との関連事例を見てきたが、これは切り口の一つに過ぎず、サプライチェーン上の調達リスクについては、体系的な分析手法を導入することが必要であろう。当社ではこれらの知見を踏まえたコンサルティングを開始すべく、研究を重ねている。

以上

(2014年3月20日 三友新聞掲載記事を転載)

早川 正希 Masaki Hayakawa
氏名
早川 正希 Masaki Hayakawa
役職
総合企画部 マネジャー・上席コンサルタント
専門領域
リスクマネジメントに関する調査研究